詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■2023年8月24日、『NO JAIL CAN CONFINE YOUR POEM 詩の檻はない』発行イベント「世界のどの地域も夜」、おかげ様にて無事盛会のうちに終えることができました。

■2023年8月24日、『NO JAIL CAN CONFINE YOUR POEM 詩の檻はない』発行イベント「世界のどの地域も夜」、おかげ様にて無事盛会のうちに終えることができました。ご来場いただいた皆様、ご出演戴いた皆様、本当にありがとうございました! オランダのソマイア・ラミシュさんに、実況的に写真を送りつつ報告させて戴きました。
 冒頭に三木悠莉さん!の朗読の動画を、そしてソマイアさんからの本日のイベントのためのメッセージと朗読の動画上映。トークのご出演に文芸評論家・詩人の岡和田晃さん、詩人の二条千河さん、木暮純さん、表紙の写真をご提供戴いた写真家の谷口雅彦さん、イラストを描いてくださった日野あかねさん、そして特別ゲスト、ウエッブ・アフガンの野口壽一編集長を迎え、貴重なお話を戴きました。
 第二部の朗読では動画にてご参加戴いた元ヤマサキ深ふゆさんの朗読、岡和田晃さん、二条千河さん、木暮純さんが自作詩を朗読。田中目八さんの俳句と佐川亜紀さんの詩を、柴田がRAVVast奏者のSAYOさんの演奏と共に朗読。最後にSAYOさんがサードアルバム(12月8日発表)より「生きる」を演奏。開設10周年のまちなかぶんか小屋様から皆さんの声と音が、オランダのソマイアさんへ、そして世界で届きますように、後日動画のほうもアップさせて戴きます。
 会場すぐ近くのこども冨貴堂さんで『NO JAIL CAN CONFINE YOUR POEM 詩の檻はない』を販売!各メディアの記者の皆様にもご来場戴きました。打ち上げは旭川はれての日本茶居酒屋WHIZさんにて、こちらでもかけがえのない時間を過ごさせて戴きました。皆様より多大なるご協力を賜り、心より感謝申し上げます。

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開会のご挨拶

 皆さんこんにちは。BaamDaad(亡命詩人の家)の日本連絡窓口を担当しております。柴田望と申します。本日はどうぞ宜しくお願い申し上げます。いつも詩誌「フラジャイル」にてお世話になっております。本日、平日のお忙しい中、お集まりいただきまして誠にありがとうございます。まちなかぶんか小屋さん10周年、おめでとうございます。
 8月15日の『詩の檻はない』出版を記念し、「世界のどの地域も夜」をこれよりはじめさせて戴きます。
 冒頭は、先日『SLAM ME』という素晴らしいアルバムをリリースされたKOTOBASlamJapan運営代表の三木悠莉さんの作品「夜はもう明けているのに」の朗読でした。次の動画は本日のためにソマイア・ラミシュさんからのメッセージ、私たちへの感謝の言葉、2021年8月15日にアフガニスタンが苦しんでいること、芸術が破壊され、詩が禁じられ、悲劇的な状況の中、国際社会からも忘れられようとしている、自由が尊重されない検閲と弾圧に抵抗するメッセージとして、57作品所収の『詩の檻はない』が発行され、11月にはフランスでも出版。詩の力は心を捉える。暴力に反対し、人間性が解放されますよう、今後もご協力を戴きたいということなどが語られています。そして、「すべての人間が自由になるまで、いかなる人間も自由ではない。」、ソマイアさんの詩の朗読動画をご覧戴きました。
 『詩の檻はない』、この発行に至った経緯ですが、今年2月、ウエッブ・アフガンの野口編集長からメールを戴き、アフガニスタンからオランダへ亡命されたソマイアさんのことを知りました。タリバン暫定政権が詩作禁止令を1月15日に発令し、現地でも抗議の声が上がっていること等、日本アフガニスタン協会にもご確認戴きました。「世界の詩人たちへ」、詩を送ってほしいというソマイアさんの訴えに、詩人協会や団体では動けず、個人の活動として、私は最初色んな方に相談したりお声掛けしたのですが、岡和田晃さんとKOTOBASlamJapanさんが、耳を傾けてくださり、助けてくださいました。
 当初は作品を、4月15日にBaamDaad(亡命詩人の家)のウェブサイトに掲載の予定でしたが、素晴らしい作品数多く、フランスで本を出そうという話になり、詩人のセシル・ウムアニさんの編集で、日本の詩は高橋純先生に翻訳して戴き、平行してオランダで三木悠莉さんや柴田の朗読の動画が上映されたり、「フラジャイル」にソマイアさんの作品掲載(木暮純さん訳)など、やりとりが続いていたのですが、6月にソマイアさんから、日本で出版したい、ボランティアで、というメールを戴き、たった二ヶ月しかないですし、普通に出版すると100万円くらいかかりますので、柴田がオンデマンドでの発行を引き受けました。
 編集で困っていると、最初に青木由弥子さんがメールで原稿の訂正をくださって、岡和田さん、木暮さん、そして二条千河さんには本当に何度も助けて戴いて、おかげ様で何とか出版レベルになりました。皆さんがいなければ完成できませんでし、匿名でご支援くださっている方もおられます。35人の詩人や翻訳の安藤厚先生ともやりとりを経て、原稿に容赦ない赤が次々入り、ずーっと寝ないで編集をやりまして、何とか発行、Amazonの詩集の新着ランキングで1位、売れ筋ランキングでも最高5位、本当に皆様、ありがとうございます。この本で得た収益はすべてバームダードに寄附させて戴きます。ペルシャ語BBC、インデペンデント紙でも報道されました。
 私は海外の詩人の方とこんなに深いやりとりをしたのは初めてです。吉増剛造さんや佐川亜紀さんの詩人として国際的なご活躍は雲の上のことのように思っておりました。一昨年からKOTOBA Slam Japanという世界と繋がる大会に関わらせて戴いたおかげで、ソマイアさんの訴えにも意識を向けることができたと思います。よく小熊賞の最終選考でアーサー・ビナードさんが、「世界文学」という基準で批評をされますが、そういう大切な視点を学ばせて戴きました。
 そして、米軍が撤退した後のアフガニスタンに、戦後からずっと米軍が撤退していない日本の私たちが関わるということ、また、5月に津川エリコさんが講演でお話されていましたが、日本もつい最近まで自由に詩を書けない時代がありました。また、侵略によって先住民族の権利を奪い、価値観を圧しつけた歴史等についても考えますと、日本とアフガニスタンの状況は他人ごとではなく、実はあらゆる要素が非常に複雑な構造で密接に絡み合っているように感じます。
 最近、性犯罪、被害、二次被害、差別といったことが日本でも議論されていますが、アフガニスタンでは女性の権利が絶望的な程に奪われ、家畜のように扱われようとし、女性用の刑務所が新たに建設されている状況も、犯罪的な人権問題と思います。アフガニスタンの美容室の閉鎖が世界的に報道されたり、ポーティスヘッドのベス・ギボンズアフガニスタンの少女たちと演奏したり、少しずつ注目が集まってきておりますが、日本でも多くの方に関心を持って戴きたいと思います。
 そして文学の想像力についてということですが、平和な日本では想像できないほど、本当にアフガニスタンが悲惨な状況であるわけですが、例えばもし私がタリバンの家に生まれて、幼いころから親たちの価値観を信じて育ち、タリバンとして生きていたらどうだったろうか、その私は何をどうすれば生き方が変わるのか…そうした想像力が問題の本質に届く文学の可能性ではないかと考えさせられております。森達也監督の福田村事件の映画で、惨殺を行った村人たちは普通の人たちであった。普通の人たちがこんなに残酷なことをするのか…、という視点からのテーマも扱われています。壁を隔てた両側の価値観、行動の背景、その深い領域まで想像力の根を豊かに這わせ、人類の魂の奥底の幽かな声に耳を傾ける、問題が発生した時点とは別の視点に詩や文学の仕事が届きます。
 詩の創作には、社会の状況を書いたり、批判するという素晴らしい作品もある一方、一見それとは関係ないような内側、内面へ降りていくことで、逆に社会と関われる、という不思議な面もあり、狭義での政治主義や、知識人も社会参加して責任を持てというだけではなく、作家が自分の独自性を掘り下げて、全体へ普遍に迫るのが、サルトルの語るアンガージュマンであり、そこに人類の問題に対峙する際に有効となり得る、可能性があると考えます。詩や文学に関わるということは、そこまで到達できるようなものを書いていかなければならない、というようなことを、今回の取り組みから、また、皆様から学ばせて戴いた思いでございます。

2023年8月24日 柴田望(詩誌「フラジャイル」主宰)

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