詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

・韓国の『詩評』(3月10日発行 The Poet Society of Asia 編集人 高炯烈氏)に自作詩(柴田望)と写真、インタビュー掲載(『NO JAIL CAN CONFINE YOUR POEM 詩の檻はない』のこと)

・韓国の『詩評』(3月10日発行 The Poet Society of Asia 編集人 高炯烈氏)に作品と写真、経歴、紹介文などを掲載戴いております! 中国、インドネシア、日本、韓国、台湾、ベトナムの詩人の作品集。210ページもあるとてもしっかりした本です。日本からは佐川亜紀さん、青木由弥子さん、伊藤芳博さん、半田信和さん、柴田望が寄稿、「部分と全体は分離できない」というテーマで、「違う世界が、同じ時間の進行を経験している」「別世界だけど分離していない」…拙詩『壁』の分断と小樽の風景、アフガニスタンの《詩作禁止令》への抵抗連帯『詩の檻はない』について書かせて戴きました。権宅明氏の翻訳です。貴重な機会を戴り、心より感謝申し上げます。
■テーマ「部分と全体は分離できない」
詩人:柴田望
原稿:30行未満の詩1篇(韓国に未紹介の作品)
***
 「 壁 」
    柴田望
sio-mi-dai一丁目
小さな山の頂き 
内装は綺麗でした
一緒に暮らしていた人は
なぜか二階で眠りました
二人は何度か聴きました
壁の向こう 
どかどかと階段の足音
息を潜めて聴きました 
「あぁ…、たまに来るの」
一緒に暮らしていた人の
つぶやきは甘美でした
ある日、家全体が
壁もガラスも揺れました
一緒に暮らしていた人と
しばらく一緒に揺れました
外へ出ると、街は揺れておらず
異様に晴れていました
一緒に暮らしていた人が
大事に育てた庭でした
街全体が眩しくて
夕日がとても綺麗でした
本当はそれは朝日でした
***
柴田望(日本、北海道 1975年生)
詩歴の最初:1998年、『詩と思想』に投稿し作品掲載。
所属:旭川の詩誌「フラジャイル」主宰
詩集:「顔」(2019年)、「4分33秒」(2022年)など
■1)この詩はいつ、どこで、どのように書いたものですか。
→2023年1月15日、タリバン暫定政権がアフガニスタンで「詩作禁止」令を発令しました。自由に詩や芸術に触れることが禁じられ、女性の教育が禁じられ、人権がはく奪されています。夜のようなアフガニスタンの悲惨な状況は、日本のような平和な国では想像できません。夜と昼、自分の生きている国の常識とはまったく常識が違う別世界で辛い経験を味わっている人々がいます。まったく違う世界が、同じ時間の進行を経験している。別世界だけど分離していない。まさに「部分と全体は分離できない」ということですね。そんな現代人の感覚を表現しようと試みました。アフガニスタンからオランダへ亡命している詩人Somaia Ramishさんが、タリバンの「詩作禁止」令に抗い、世界の詩人たちへ、詩を送ってほしいというメッセージを送りました。日本を含む世界各国から100作品以上の詩が送られました。そのうち57作品を収めたアンソロジー詩集『詩の檻はない』を私が編集し、2023年8月15日に発行しました。8月15日は日本にとってもアフガニスタンにとっても重要な日です。日本にとっては敗戦の日であり、アフガニスタンは2021年8月15日にタリバンに陥落しました。
 この詩集の発行はBBC、インデペンデント紙でも報道され、世界の注目を集めています。(『NO JAIL CAN CONFINE YOUR POEM 詩の檻はない: ~アフガニスタンにおける検閲と芸術の弾圧に対する詩的抗議』)
■2)この詩であなたがもっとも好きな個所はどこですか。
→冒頭の「sio-mi-dai」とは小樽市の地名です。海がよく見える台地という意味です。20年前に私はそこで住んでいました。懐かしい経験です。それまでまったく経験したことのなかった、私にとっては初めての霊的な体験がありました。
■3)あなたの詩はAI文明と関りが深いと思いますか。それとも、何の関りもないと思いますか。
→私は英語圏の人々とメールを交わしていますが、AIの翻訳機能を活用しています。いくつかのAIで、翻訳と逆翻訳を繰り返して文をチェックし、翻訳文を作り上げ、コミュニケーションを交わしています。
■4)詩を諦めずに書き続ける理由と目的を一つの文章でおっしゃってください。
→尊敬する詩人である佐川亜紀さんや、吉増剛造さんの作品を読むと、書きたいという気持ちが湧いてきて、人生に勇気が与えられます。読書が書かせるのではないかと考えます。出会いも詩を書かせます。読むことと書くことや人と会うことが、人類の膨大な知識に接続し、表現の意志を与えるのです。それは人類がどう生きるかという永遠の問いに繋がるような神話的な営みだと思います。
■5)生態・環境の破壊問題は人類の生存と直結された危機の談論です。福島の汚染水(核廃水)を地下に永久に埋葬すべきなのか、それとも海洋に放流すべきかについて詩人はどちらが妥当であると思いますか。
→正しい情報が伝えられることが重要だと思っています。科学的に安全なのか、安全ではないのか。安全ではないのであれば、放流すべきではありません。もし安全だというのであれば、その根拠が示されるべきです。飲めるほど安全だと政治家が言うのであれば、その政治家が水を飲んで安全性を示すべきです。もし今までに他の国からは一切海へ流されたことのないほど危険な汚染水を、世界中の日本だけが放流するのであればやめるべきです。どの国が反対して、その国が賛成しているのか、冷静に見て考えなければなりません。
 汚染水の放流が安全であるという情報を世界へ流し、放流を行う決定を行うのは、権力者の都合です。それは日本の権力者なのか、海外の権力者なのか。両方なのか。冷静によく見て考えなければなりません。日本に対し、汚染水を放流しなさいという圧力を加えているような、日本以外の国があるのではないか、そのような疑いを持っています。
 今までの歴史を振り返ると明らかですが、ある国の判断に異を唱えた日本の大物政治家は皆失脚しています。日本という国の政治は、日本人だけのものではないようです。歴史全体の流れの原因である、お金や利得の流れを冷静に見て判断しなければならないことです。権力者が報道をコントロールしています。テレビやネットのニュースで報道されている内容のすべてが真実ではないと考えています。
■6)あなたがよく通れる路地(子供たちの多い住宅密集地域、市場通り、魚市場)の写真を見せてください。あなたはその路地(小道)でどのような思いと詩想を得ていますか。
→海の見える街の写真は、今回の詩の舞台となる小樽市の写真です
詩の舞台は小樽市の潮見台という場所です。私は小樽に2年間住んでいました。この写真は小樽港と市街中心部を眼下に見下ろすことができる旭展望台(小樽市富岡2丁目)という場所です。歴史ある街全体を一望できます。