■オオカミアンソロジー2018 Kindle版 に、拙作「顔」を掲載戴いております。字数が多く、たいへんご迷惑をお掛け致しております。光冨郁埜様、誠にありがとうございます。Kindleで自分の作品をスマホで読めるという貴重な体験をさせて戴きました。参加者の皆様の創作への御姿勢に深く感化されました。心より御礼申し上げます。
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光富由美子 森雪拾 宮坂新 中村梨々 光冨郁埜 猫町すみす 登り山泰至 鹿又夏実 あたるしましょうご中島省吾 前田利夫 平川綾真智 柴田望 福士文浩 (著), 光冨郁埜 (編集)
https://www.amazon.co.jp/dp/B07Q4HVCYN/ref=sr_1_2…
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「 顔 」
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真っ白い 何もないただの壁に 窓を落書きする
真っ白い曇り 氷点下の結晶 景色を遮る粒子が星空に吸われたのではなく ある夜、窃盗団の侵入 幾世帯もの窓ガラスとステンレスの枠は持ち去られる 死が同じ方向へ一斉に叫ぶ 「こんな工事、発注してない！」 グーグル・アースでは細い腸のような楕円状眼の集落 涙腺を辿れば渦巻き状に削られている 鉱質の地下水は枯れ 大規模な洪水により土木が湖底へ流れて土砂に埋まる 植物の形骸 菌類や微生物に分解される前に 湿地帯に埋没している残組織が泥炭となって堆積する 地中に埋まった植物は年代を経て無煙炭へ熟す 真っ黒い 石炭は洪水の痕跡である 旧三井砂川炭鉱中央立坑櫓 カーブする渓流の奏で響く 最盛期は人口密度日本一 無人集会場、共同浴場と三〇棟あまりの廃墟だけ 水道も電気も来ている 最後の生活保護の住民も去り 坑道の入り口は閉鎖された 鉱石の祭典の賑わいを背に 男が訪れるのは地元カーショップの損保代理店 個人情報を用い 窓口の女性が書くのは 姓名判断 四柱推命 手相 数秘術 西洋占星術……A４・三枚 手書きの儀式で映像は閃く 採用面接の攻略 核の記憶へ遡り ヴィジョンを伝える 男の表情は変わる その瞬間にだけ重い仮面をようやく外す きっかけは何度も夢を見せられたから 何もない壁に籠められている 全体の予算 国の計画 解体できるか？ ベニヤの壁を石で叩けば 薄いコンクリ 結露の酷い石膏ボードが粉を垂らす 古いポスターや黴びた畳が永久に濡れ 視力と言語を盗掘されたのっぺらぼうの同じ顔が 月に向かって咆哮している 幾世帯もの束ねられた表情の破算 どこへ散らされたのか？ トラックは国境を過ぎた 反射する風景を奪われ 緊急ダイヤルが鳴る 「ピザを届けてほしい」 「これはただのピザの注文ではありませんよね」 「はい、ラージサイズをお願いします」 警官が出動、酔った男に手錠をかける （男はウィリアム・Ｆ・フリードマンじゃない） 電話した女性の唇は裂け 目は腫れあがっている 先週、忠告されたはず…でも彼の元を離れようとしない 責任をとらなければならない 重い仮面を脱ぎ 悩みを話した相手は占い師でもカウンセラーでもなく 水晶玉でもない 鏡だ 苦しみは一人ではない 大勢が口コミで並ぶ 占い師は書くのが大変 紙にひたすら…すると映像で伝えてくれる 役割は暗号に過ぎぬ 窓を盗んだ組織の人相 生きているかを知りたくて 警官やご親族が行方不明の写真を持って訪ねる 草叢に隠れ 獲物に目を光らせる 入れ墨の狩猟者 渦巻や棘や眼の文様 言葉を盗まれ 炭鉱で働かされたご先祖 沢の集落 入り口の華奢な橋を揺るがせ 建造された遺跡 催眠の季節に 団地をすべて壊すのではなく生かせるものは生かせないか 国や町の予算でやれはしないか 窓枠を奪われた廃墟に棲む 何も貼られていない結露の酷い透き通る壁に 人々の顔を浮かべようと試みるとき 遡っても 秒針は未来へ還る一方なので 決して忘れられず 目指すことしかできない（一応、制限されている） 眠る胎児 人生を形づくる分子レベルの核 枝分かれして結晶はひろがる やがて分裂 真っ白い 何もないただの壁に 表情は描かれています
