詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■「北海道詩集No.66」2019年版

■「北海道詩集No.66」(2019年版)が届きました。柴田が提出した「肌」という作品は、このフェイスブック上で恐れ多くも法橋太郎さんに御指導を戴きながら校正を重ねた作品であり、旭川詩人クラブの詩画展では、小篠真琴さんのお写真にテキストを重ね「越える」というタイトルで展示致しております。せっかく法橋さんの御指導を戴きながら、私がまだまだ修行不足でありますため、内容も題名も絞り切れていない、改善の余地が残る、至らぬ点の目立つ作品であります。題材としては大学時代の私の至らぬ点について…当時の痛みの核のような、魂の深い傷のような地点を満足のいく書き物にできるまで、この人生の課題は続くと考えられます。
 北海道詩人協会の詩集は詩人アイウエオ順のため、見開きでお隣のページが、今年札幌道新ギャラリーでの支倉さんの催しで出会うことができた、『詩邦人』同人の佐藤亜美さんの作品でたいへん嬉しく思います。
 今回の「北海道詩集」は本当に、金石稔さんと長屋のり子さんによる「詩集展望」が圧巻でした。鷲谷みどりさんの詩誌評に「フラジャイル」のこと、柴田の詩についても触れてくださり、恐縮の限りです。「柴田望の「手伝う」は、詩作という行為に対して分裂し収㪘し相互関与を繰り返す「他人としての私」を内省的に突き詰めていく詩と読んだ」と書いてくださっている、そんな凄いものを柴田に書けるはずがなく、鷲谷さんの感性が本当に素晴らしい。「北海道詩集」を初めて手にとった頃、北海道を代表する凄い詩人たち…遠い世界とばかり思っておりました。ここ数年で寄稿されている半分近い詩人の方と知り合うことができ、それもまた奇跡のような出来事です。人生のどこかの時点で詩を書くと決めた方たちが、今年たった一冊発行される「北海道詩集」にその作品を載せると決意した、次の行に何を書くと決意した、タイトルの言葉を選んだ、戦争の時代を生き、敗戦の後に生まれ、高度経済成長期に、さらにバブルの後に生まれた、幾世代を超えた膨大な思想と感受性による選択。

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肌  柴田望
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「今日は天気がいいので、入国管理局へ行こう」
悪気はない 
三日ほど不法滞在している
それくらいの度胸がなきゃだめ
ぼくは免許を取りたてで 親に内緒で車を買い
事故を起こして免停中
それくらいの度胸がなきゃだめ
ハンドルを握る 早朝に出て一〇時半に着く
第三合同庁舎七階 航路を眺める 
「領事館へ行きなさい」
ナビのない時代 あった、伏見公園近く
女性職員と母国語で喋る
・・・彼氏に連れてきてもらったの・・・
・・・裕福な国で育ったばかな学生・・・
これで安心 さてどうする?
日本は海に囲まれている
五号線から札樽道 運河通り
銀の鐘 オルゴール堂 北一硝子
潮の香り 波の羽音もだんだん薄く
ガソリンスタンドの電光に揺れる
曇りガラスに文法を書く
ご両親に会うためのレッスン
実家からひと月かけて船便が着く
帰省費を稼ぐバイト
夜の十二号線 小さな喧嘩 
アイシャドウの入墨 肌の感触
助手席と運転席だけが祖国
一人のときはぜんぶ異国
顔写真付きの証明など
大したことはない
悪気のない 異様な視線に曝されていた

 

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