詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■番場早苗さんの個人誌「恒河沙」No.3 《特集》映画の話

■番場早苗さんの個人誌「恒河沙」No.3を拝受致しました。誠にありがとうございます。
 《特集》映画の話。興味の尽きない話がぎっしり!!「いつかみんなで列車かバスに乗って話したり歌ったりしたいね…」その夢を実現されたのが、この一冊のすばらしいエッセイ集。とても勉強になりました。
 仕事柄、大学生や短大生、専門学校生にお会いする機会が多いのですが、ここ数年、「映画が趣味です。」と言う学生たちに、「どんな映画が好きなの?」と聞くと、皆さん口をそろえて「マーベル映画です。」「『アベンジャーズ』です。」と元気よく答えます。「『ニューシネマパラダイス』とか、『2001年宇宙の旅』は?」と聞くと、そんなものは知らない。もっと新しい『エターナル・サンシャイン』とか『マルホランド・ドライブ』なんかも観ていないという。大丈夫か? マーティン・スコセッシ監督の「マーベル映画はテーマパーク」発言について、もっと真剣に考え議論しなければならない、と思っておりながら、自分も最近ぜんぜん映画を観ていないことに気づく。そこから入り込む先があるのなら、入口はマーベル映画でもいいのかもしれない。大好きな映画の1シーンからとか。自分の入口は音楽でした。大学時代にバンドをやっていて、洋楽がかかる映画中心に観ていたような…越川道夫氏が言及しているヴィム・ヴェンダース監督『ベルリン天使の歌』のニック・ケイヴ&バッドシーズのライブシーン(「From her To eternity」)。堺麻那氏が書いている〈「バッファロー’66」のレイラがキングクリムゾンで唐突に踊り出す〉古いボウリング場のシーン(曲は1stアルバムの「Moonchild」)。他にも例えばルー・リードが歌う「This Magic Moment」の『ロスト・ハイウェイ』、『地獄の黙示録』でドアーズの「The End」がかかるシーンなどは、ふっと違う時空に運ばれる。時間が止まる。そういう体験から、わからない映画がだんだんわかる映画になっていく(テーマパークのような映画は多重に忙しすぎて、時間がなかなか止まらない)。また、『ピアノ・レッスン』が好きでマイケル・ナイマンの曲を、サントラCD付録の譜面を見ながらよく弾いていました。『ピアノ・レッスン』でハーヴェイ・カイテルに興味を持ち、『ユリシーズの瞳』を観たが、当時は映像の雰囲気を味わっただけで、よく理解できなかったかもしれない。中里勇太氏が「映画体験と呼ぶよりも詩的言語との出会いと呼ぶほうが正確」と表現している。もう一度観たい。
 中学時代、テレビで何度も再放送される『ダーティ・ハリー』が好きで、クリント・イーストウッドのファンでした。大学3年のとき教育思想史の授業で提出レポートのテーマに研究。B級っぽい監督作が好きで、老いても強いアメリカを表現したような『許されざる者』以降は一時期興味が持てませんでした。911直後のチャリテイー番組「アメリカ:ア・トリビュート・トゥ・ヒーローズ」に登場し、許さないぞと敵をにらみつけたほとんど直後に、なんと冤罪をテーマした『ミスティック・リバー』を撮ったのに驚き、そのあたりから再熱。番場早苗さんが「感心したのは、詩のある映画が文芸ものばかりでないこと。ボクシング映画にも詩があった。」と書いておられる『ミリオンダラー・ベイビー』は一人で映画館で観ました。仕事帰りにシネプレックス旭川のレイトショー。白人の低所得者層をえがき、尊厳死をえがいていた。「「モ・クシュラ」。観客が熱狂し連呼する」、「「君も小屋に来るか?」「レモンパイを焼くわ」、そんな会話のときもあった」それらのシーンは忘れられない、時間の止まる、ふっと違う時空に連れて行ってくれるような瞬間。15年前に一度しか観ていないのに、他にもたくさん、今でも鮮明に、強烈に、痛々しく、憶いだせるシーンがたくさん詰まっていました。

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