詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

詩誌「蒐―Syuu」12号(2019年12月20日発行号)

■美しい詩誌「蒐―Syuu」12号(2019年12月20日発行号)を御恵送戴きました。誠にありがとうございます。

 田中聖海さんの「夕陽」、魔法のとき。「地上は/二度と逢えないものに満ちている」。二度と逢えないものに会うために私たちは生まれてきた。夕陽は「過ぎ去っていくもの」であり、私たちもまた過ぎ去っていくものである。「今日の仕事」も「微かな傾斜」もすべては神から借りたもの。

 渡会やよひさんの「犬サフラン」、「過ぎ去ったさいわいが/道端で顔をあげる」。さいわいとは顔をあげたり、過ぎ去ったりするものなのか。過ぎ去った後はわざわいになるのか。「晒されているのは/死んだ鹿のしろい腹」。イヌサフランは猛毒。花言葉は「永続」「永遠」「頑固」「楽しい思い出」「悔いなき青春」「華やかな美しさ」「危険な美しさ」「華美」「美徳」「回顧」「努力」「幸福」。危険と美しさは釣り合うのか。「さいわいと/わざわいと/度しがたいものは/閉じることなく」「ひっそりと/釣り合っている」

 本庄英雄さんの「鏡面の霧笛」。標高618 m、函館の活火山恵山雄大な自然の景色。マグマの光が「手掘りのトンネル」を、「青森尻屋崎と海峡航路の行く手」を、「風雲波頭」を照らす。「固まった来歴を/はらいのける」ほどの霧笛とはどれほどの音か。音は光とともに鏡面の入り江に反射している。

 坂本孝一さんの「呼びに来る鬼のとき」。何度読んでも深い作品。来年の事を言えば鬼が笑う。将来のことなど前もって知ることはできないのだから、あれこれ言っても仕方がない。「見ているのか読んでいるのか」「左右の閉じれない耳」へ注がれる膨大な情報、警告。「荒むところ攪乱するこころあり」「月日は街に潜み勝手に手を振る」。デマやフェイクニュースに青ざめたり赤くなったり。一方、報道されない「沈黙の深さ」が「砥石に」のせられているのが恐ろしい。振り回され、操られ、手懐けられている。「なぁに 身勝手な文字で机を叩く/軍であったかもしれない」。

f:id:loureeds:20200315181401j:plain