詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■「恵庭市民文藝」増刊第32号

■「恵庭市民文藝」増刊第32号を拝読させて戴きました。誠にありがとうございます。3月に発行された時点では、68ページに案内が掲載されている「第13回春萌え朗詩の会」が行われる予定で、参加させて戴くことになっておりました。今回中止になってしまいましたが、その分、ご掲載の皆様のご作品をしっかりと読ませて戴きました。(ここ2年くらい、休日のたびに道内各地のイベントに出動し、皆様から貴重な勉強の機会を戴いておりました。今年はことごとくあらゆるイベント中止になってしまっておりますが…昨年、一昨年にも増して、大量に全国から詩集や詩誌等をお送り戴いております。すべて拝読させて戴き、御礼の感謝と感想をしたためております。これもまた自宅に居ながら、常に旅のような経験であります。)

 「フラジャイル」第8号にも御寄稿戴きました、村田譲さんの詩作品「入院病棟」に注目、入院患者の苦情と夜勤の看護師。長年のクレーム対応の経験から申し上げますと、感情のスケールの上から順に〔愛、感謝、歓び、情熱、興奮、熱意、希望、満足、退屈、苛立ち、落胆、心配、批判、怒り、敵意、羨望、罪悪感、絶望、恐怖〕、半分から下(退屈から恐怖まで)のマイナス感情の周波数を自ら湧き起こし、クレーマー(この場合は入院患者のおやじさん)は苦情で波動を相手(看護師)に伝える。苦情を言い続けることはじつはそんなに簡単なことではなくて、自分の脳をnegativeな波動に満たしていなければ波及できない。だから何度も同じことをまくしたてるし、発信者は常に自分でなければならない。燃料とエンジンが必要な作用。「呪ってやる投稿してやる/死んだときはヒューマンエラーで訴えてやる」太古の呪い。関ケ原敗戦後、石田三成福島正則に向かって、あの世で太閤殿下にお前のことを報告してやる、と言ったくだりが、司馬遼太郎関ケ原』にえがかれていた。カスハラ(カスタマーハラスメント)などの言葉が無かった時代は小売業などで、明らかにこのマイナスの波動で悪質な利益を得ようとするお客さんが多かったが、そういう人は他所でも同じような強引な行動をするので、自分の運命に不利益をもたらしているようだった。理性的ではない扱いに対して、看護師は理性的に対応する。夜勤時間いっぱい、看護師のプライベートに影響を及ぼすほどまでに、入院患者のおやじさんによるマイナス発言が、具体的にえがかれる。救いのない状況が照射され、不思議とおかしみがあり、読み進めるほどに救いが得られるように感じる。最後の三行、「いつもと変わらぬ日常に/潜む退屈の愛おしさが/腹立たしくて笑えない」、「退屈の愛おしさ」…前述の感情のスケールの頂点である「愛」へ、視点が一気に高められる! 「腹立たしくて笑えない」とは笑いが前提。詩が可能とするユーモアの偉大さ。

 思いつめて高いビルから飛び降りた人が、落ちている最中に窓から様々な他者の人生を覗き、悩んでいるのは自分だけじゃなかったことに気づく短い漫画を昔見たことがあります。そして悩みばかりではなく、眩しい瞬間の記憶もたくさんあるということ、人生の何に注目すべきかを、同誌掲載の村田さんの詩篇「新年会へ行こう」「プロポ―ズ」に教えられるのでした。

 高橋正彰氏の「旧道今昔」に恵庭の歴史を学び、吉原恭子氏の「ペルーのお客様」異文化の方をお迎えする交流から、自国の文化を学ぶことの重要性を感じました。佐野淑子氏の「スマートフォンを買ったけど」、現金10万円の一律給付のオンライン申請の難しさが今日の新聞にも出ておりました。技術に翻弄されます。皆様の詩・創作・俳句・エッセー、興味深く拝読させて戴きました。心より感謝申し上げます。

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