詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■「〔詩の練習〕なぜ詩を書くかVol.4」(2020年9月1日 編集発行人:杉中昌樹氏)

■「〔詩の練習〕なぜ詩を書くかVol.4」(2020年9月1日 編集発行人:杉中昌樹氏)が届きました。
 杉中さんに御依頼を戴き、柴田が「壁 ―「振り子」」という作品を寄稿させて戴いております。
 表紙を拝見し、息が止まりました、、、。まさかこの人生で渡辺武信氏と同じペーパーに自分の名前をお載せ戴くようなことが起こるとは…困惑と驚き、恐縮の限りであります。また杉本真維子さん、小笠原鳥類さん、当然杉中昌樹さんという凄い方々の中で、突然田舎の果ての柴田が拙文にて、大変ご迷惑をお掛けしてしまったのではないかと恐縮しております。
 1960年代、「暴走」、「×(バッテン)」、「凶区」の詩人…『現代詩手帖文庫35「渡辺武信詩集」』、20代の頃よく読みました。「恋唄」とか、「夏の街」の「走りだせない/椅子をけり帽子をつかみ/ボタンをむしりシャツをちぎり/まぶしい陽射のはねる道へ/駆けていけない/ぼくの中に脈打つ夏は/たえずひやされ殺菌される」…私や多くの詩人にとってヒーローの一人である渡辺武信氏が…本号の〔詩の練習〕には「ヒーローの夢と死」という作品を寄せておられます。
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目次
ヒーローの夢と死  渡辺武信
歌を導き出す枕詞の魔力  渡辺武信
なぜ詩を書くのか  杉本真維子
発表されるもの、発表されないもの  小笠原鳥類
壁 ―「振り子」  柴田望
なぜ私たちは詩を書くのだろうか  杉中昌樹
発行日 2020年9月1日
発行所 詩の練習
編集発行人 杉中昌樹
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壁  ―「振り子」      
         柴田望
部屋はがらんとしている 三人の子どもが壁に静かにクギをうつ
鉄の玉が先についた紐をくくりつける 動いているのに止まって見える
振り子で壁全体を揺らす 一つ目の振り子は二つの振り子を揺らす 
二つの振り子は四つの振り子を揺らす 四つの振り子は八つの振り子を揺らす
振り子はロサンゼルスのワッツタワーよりも高くそびえる 偉い人がさらに偉い人に
さらに偉い人が一番偉い人に ほめてもらうための(だましあいの)ゲームみたいに
小さな振り子は大きな振り子にだまされて大きな振り子に投票する
一つの家族は大きな振り子を構成する小さな振り子にすぎないと悟る
憶えていなさい 与えた力はそのまま返る 一つ一つ 受けた力をそのまま返す
揺れるたびに忘れるために 書いたものを永久に残さないために
文字があるということは 声があるということは 手触りがあるということは 
痛みがあるということは 血がでるということは 光があるということは
揺れている証拠である 震えている証拠である 止まっている証拠である
字も 森も 道も 地平も 揺れている線の波動である
あることが起こるたび 壁と 壁に増え続ける振り子の三角形と
三人の子どもは絵になる 絵は一見止まって見える
震えていなければ 色は見えない でも、色や形や大きさは
問題じゃない こわがらなくていいよとゆるすために
おそろしくて目をそらしたくなる奥底の 芯のために
うれしいに揺れたとき かなしいにもどるために
くるしいに傾いたとき たのしいにもどるために
三人の子どもが壁に静かにクギをうつ 神様、どうかこの子たちを
決して書かれることのない 静かな経験からお護りください  
お父さんがお母さんをどなる お母さんがお父さんをどなる 声が消えるために 
フィクションでありますように 一つ目の振り子は二つの振り子を鳴らす
二つの振り子は四つの振り子を鳴らす 四つの振り子は八つの振り子を鳴らす
私たちが生まれた日 うれしかった日のことを どうか笑顔で具象的に
大きな振り子に逆らい お父さんとお母さんに憶いだしてもらうために
トム・ブキャナンがデイジーにたのしかった想い出を語る
部屋はがらんとしている デイジーの心は揺れる 休むことなく震えている

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