詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■松尾真由美さんの新詩集『多重露光』(思潮社) いつからか、いつまでも そして 漕ぎだす舟の いとわしい逡巡を 解きはなってみたくなる (「暗く明るい船出としての」)

■松尾真由美さんの新詩集『多重露光』(思潮社 2020年9月30日)を拝読させて戴き、一行一行が多様な被写界深度焦点距離を持つ多重録音の実験音楽であり、異質さとのぎざぎざの手触り、一人称の対話であり、関係を踏み進める直前の怖れと戸惑い。うすい影の美しい揺らぎ。消え入る闇が無ければ像は浮かばず、沈黙が無ければ音は波形を描かない。「かずかずの反射の機微は鮮度をたもって麗しく/崩れない直線を描いているよう」(「眩しくて危ういもの」) 灰や無機物に生と死を与える詩は魔法。眩暈は希望。「不注意と無関心とその他の反映から、乾かない水たまりが濁りすぎて虫もわいて、気味の悪い地下を想像させていき、宙に浮いた涙の粒が中空で集まれば扼殺をまぬがれる、そうした希望も生まれてきて、より集合する涙の多様で紙が破れ、ひとすじのひかりがさすのだ。」(「灯火の熱の養分」) 想像の危険な魔力、打ち寄せる波の催眠術に現実をずっと操られていたいと希求しつつ、五感のうちの一つか二つを停止することでさらに研ぎ澄まされていく、深い時間の浸食に心より感謝申し上げます。

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