詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■杉中昌樹さんが発行される「映画+詩 影・えれくとりっく」Vol.8に・・・

■杉中昌樹さんが発行される「映画+詩 影・えれくとりっく」Vol.8に、拙詩「壁 -雨のシーン」を掲載戴いております。誠にありがとうございます。映画のことについての寄稿という御依頼を承り、新海誠監督の『天気の子』を鑑賞し、安部公房作品の影を感じたということを書かせて戴きましたが……、1連目「大切な人の想いが詰まった品を天に返す日」、立花冨美宅のシーンで行われたのは旦那さんの初盆の「迎え火」であったのに、品物を供養する「お焚き上げ」だと勘違いして書いてしまったように思えます。校正で気づかなかった…記憶で書いてしまった反省です。次に発表の機会には、「大切な人へ迎え火を焚く日」と改めてみます。
*
「 壁  ― 雨のシーン 」
雨のシーンが美しい… 大切な日 例えば運動会 花火大会 大切な人へ迎え火を焚く日 少女が祈れば、短時間、局地的だが確実に雲間から光がさす 笑顔でいっぱいになる お客さんに感謝されて、役割を知る 行方不明の少年は秘密を知る 少女が仕事を終えるたび 代償として体が(空のように)透き通っていく…
映画館の座席で 懐かしい登場人物たちの記憶が一気に噴きだす コモン君 アルゴン君 棒になった男 S・カルマ氏… 変わっていく自分・拒絶する自分 人間が自己変革の新しい拠点を創るために 幾何学の《補助線》を引く 強制された現代の連帯性を変革する
スクリーンが経験させる 世界の変化・変形 世界の中の自分の変化・変形 自分の中の世界の変化・変形… 新海誠監督『天気の子』を観た2019年、原因不明な肺炎が発見、報告された 翌3月には「pandemic」に至っていると認識され 同時に「infodemic」が常態化した 世界各国が緊急事態であると認識し、国民に対する行動制限を行った
(《私》の変形が、ふたたび始まっている、といわなければならない。戦後の《私》は、無から、出発した。それは、無の意識を軟体化しようとする伝統的情念と戦いつつ、基盤をきりひらいてきた。その戦いは、神を呼びつつ、そのものによってみずからを呪縛していき、ついに植物的存在へ退行してしまう道を、遮断することだった。自己救済から神へとむかい、奴隷の虚弱な人格のうちに収斂されていく《私の頽廃》を、そういう自己欺満を、破砕することだった。それゆえに、自己救済の願望によって逆に壁の中に塗りこめられてしまうような意識のありかたが、否定されなければならない。)
高野斗志美安部公房論』1971年)
※pandemic = ある感染症(伝染病)の世界的な大流行を表す語。語源は、ギリシア語のpandēmos (pan-「全て」+ dēmos「人々」)。 ※infodemic = ウェブ(ソーシャルメディア等)上で真偽不明の情報やフェイクニュースが流布し、これを多くの人が真に受けてパニック状態となり、社会の動揺が引き起こされること。

f:id:loureeds:20201227233342j:plain