詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■「壁 ―一枚の葉」柴田望・『グラフ旭川』2021年5月号《文芸》(53ページ)

■『グラフ旭川』2021年5月号《文芸》(53ページ)
「壁 ―一枚の葉」   柴田望
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宮本武蔵は生涯に六〇回以上
命がけの勝負をして一度も敗れなかった
しかし沢庵和尚に騙されて
千年杉に吊るされた
怒って杉を揺らすが、沢庵が笑う

「お前の怒りはその程度、
 《私利私欲》のものだ
 本物の怒りはそんなもんじゃない
 大地を揺らす
 《世のため人のため》の怒りだ」

「虎は所詮動物、蛮勇は勇気ではない
 武士の強さはそんなもんじゃない」

死を恐れなかった武蔵が初めて
生きたいと願い、命乞いする
沢庵和尚は許さない

剣禅一如の境地を説いた沢庵宗彭
宮本武蔵と会った史実はない
それなのに千年杉のエピソードは
繰り返し語られている

一枚の葉にとらわれるのをやめたとき
百千の葉を心は見る
自分のために怒っていては
周りの怒りが見えない
だから人を守れない 
自分さえ守れないと悟る

怒りを手放したとき
沢庵がわざと目をはなした隙に
お通が武蔵を解き放つ
もう武蔵は虎ではない

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