詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

「 感謝 」 柴田望

「 感謝 」 柴田望  
                          壁
                           と襞
                          売と買
                         冷と温度
                        混沌の始原
                       繰り返し導く
                      最後の一行へと
                     骨壷から取りだし
                    草原を走る骨の展示
                   迫間で言った言わない
                  元首ではなく儀礼的機能
                 被支配は感情を飼い慣らす
                報告をしたとき目を見て話を
               聞いてくれてマスクをはずした
              その一瞬の息を呑むほどの美しさ
             神聖不可侵である長い象形の途上で
            見慣れた朝夜の映しを見たこともない
           聴いている見えない人たち海が話す楔形
          手指からこぼれ落ちた子どもの書紀常世
         こぶし大の波動永年弾き続けたフレージング
        形がないかもしれない途方もない韻律の奥底へ
       長年死のうとして描かれた点の悲しみは報じられ
      大事な雫はゆっくり明瞭に語られなければならない
     目を閉じても容易く大陸を手に入れられる規則を巡り
    迷路の出口を見抜くさだめ耳と目をふさいで偽り続ける
   法律によるヘイトクライム自覚のなさが狩猟の証明である
  自覚した獲物であったとしても明滅する塵と何かが外にいた
 という自覚はない醒めることなど求められてはおらず陸へ導く
空の向こうのあなたへ呼びかける詩形はこれしかないありがとう

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