■『北海道詩集 No.68 2021年版』(北海道詩人協会)
北海道詩人協会・会員七〇名の詩作品、山内みゆきさんによる「詩集展望」、小篠真琴さんによる「詩誌展望」、表紙絵は本庄隆志氏。素晴らしい一冊を、本当にありがとうございました。
私は詩を全然書けなくて、既出の作品を提出させて戴きました。富田正一さんへの感謝をこめて。精進致して参ります。
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「楯 (富田正一さんへ)」 柴田望
報道と市の認識に「隔たりがある」 *1
隔たりが招いたのか
調査する側の都合で変わるのか
教科書が笑う
当時の航海技術では捕虜を運べません
シベリアに抑留なんてありえない *2
いじめか、いじめではないか
シャベレルカ、シャベレナイカ… *3
加害者の中から生まれたのか *4
権力が色分けするのか
教科書から消したのだ
黒珊瑚と呼ばれた詩人が
少女の心に寄り添い書いた記事を *5
九州大刀洗飛行場、加世田市万世飛行場で
死地へ赴く仲間を見送った
十八歳で復員、重い心の楯をおろす
〈よりどころ〉を築くために
十九歳から九十一歳までの七十二年間 *6
声なき声 言葉にならない言葉
表現の自由に生涯を賭けた
少年兵のいくさは終わりましたか
続きますか
領域が当然のごとく
奪われるものとしてある限り
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*1 北海道旭川市で二〇二一年二月に行方不明となり、三月に遺体で見つかった当時十四歳の女子中学生について、旭川市教育委員会は、いじめを受けていたのか調査することを決めた。西川市長は報道について「われわれの認識とかなり相違があり、事実確認が必要だ」として、市教委に当時の対応を調査するよう指示した。
*2 テレビ東京「池上彰の教科書に載っていない20世紀『戦後ニッポンを救った知られざる人々』」二〇一五年十一月二十二日放送、宮崎美子がペトロパブロフスク・カムチャツカの郷土資料館で日本兵の遺品などを見学した。郷土資料館の職員は占守島でソ連が終戦後に日本兵をシベリアに強制抑留した事実はないと否定した。
*3 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で利用者ら四十五人を殺傷したなどとして、殺人などの罪に問われた元職員植松聖被告の第二回公判が二〇二〇年一月十日、横浜地裁で行われた。事件の際、被告に連れ回された職員の供述調書が読み上げられ、被告が「しゃべれるのか」と確認しながら、話せない人を狙って襲った様子が明らかにされた。
*4 「被害者の中から人間は生まれない。加害者がその意識を自己に向けた時に人間は生まれる。」石原吉郎『望郷と海』(筑摩書房)
*5 黒珊瑚(小熊秀雄)署名記事「北都高女生山田愛子が投身自殺するまで」(『旭川新聞』大正十二年) 金倉義慧著『北の詩人 小熊秀雄と今野大力』(高文研)に全文収録。
*6 詩誌「青芽」は一九四六年七月、当時十九歳だった富田正一さんが《心のよりどころ》を作ろうと「学窓」の誌名で創刊、詩誌としては道内最長の七十二年間の活動で一五〇〇人以上の詩人が参加した。二〇一八年七月三〇日、通算五七六号で終刊を迎えた。