詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

ヤリタミサコさんの詩集『月の声』(らんか社)

■古い橋について、住むこと、月の声について、不思議なカメラについて書かれたヤリタミサコさんの御詩集『月の声』(らんか社)、何度も拝読させて戴いております。ご恵送賜り、心より感謝申し上げます。英語対訳の「橋」、存在についての寓話。教訓を与えるのではなく、今いる世界から読者を引き離し、時間を超えた旅へ連れていってくれる。「寝そべったままの男は、時間から空間から距離からイデオロギーから完全に解放されている。重力からだけは解放されていないので、浮遊することはない。」というエネルギーだけの存在としての浮遊体験を詩がで味わう。セクシャル・ハラスメントの件で複数の女優から告発されているウディ・アレンが、「自分の限界にそろそろ絶望し始めた」存在として登場するのが興味深い。意識が時間を超えることを思い出させてくれる。「そわそわしているのは落ち着いている証拠」…そわそわしていなければならなかった、表情と心理を絶妙に捉えているようです。
 p52「herstory」に「ブコウスキーの書く女」が登場。「顔を捨てて」とあるので『町でいちばんの美女』のキャスのように読めるが、どの「女」か特定せずに自由に読みたい。ブコウスキーの短編に出てくるのは、壮絶にもがき苦しんでも断ち切れない「未生の痛み」、満たされぬ孤独を抱えた魂ばかりで、彼らの声に耳を澄ませたいと、月夜に想いを馳せました。

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