詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

佐藤裕子さんの詩集『風媒譚』(阿吽塾)

■畏敬する詩人・佐藤裕子さんより御詩集『風媒譚』(阿吽塾)を戴き、拝読させて戴いております。200ページを超える、厚く…熱くて深い、どのページも美術品のようで、本を読んでいるというより詩行から立ち上る波動が空間を侵食していくような感覚を覚えます。風媒とは植物の花粉を風が運んで受粉を媒介すること。エネルギーの震えのようです。『瀧口修造の詩的実験 1927~1937』(思潮社)を初めて小樽の図書館で読んだ時のような…文字列が水平線の方方を燃やす太陽の贈り物のような…難解な作品…。しかし佐藤裕子さんにしか書けない詩世界に潜在意識ごと浸かっていると、それは至福で、時間があっという間に過ぎて、詩とは読まれるもの、解読されるものとしてあるのではなく、言葉や文字そのものの輝きを味わうことができる、古文書であり、秘術であり、呪文であり、膨大な時間へアクセスさせてくれるものではないかと感じます。いまやパソコンやスマホを開けば膨大な光の粒によって編まれた字や画像が奔流する時代。プログラム言語とは違う規則で詩は編まれ、「木霊する鎖と泡を絡め深海が打つ信号音」(P112「浮かばないもの」)として、存在の根源に迫る。アナトール・フランスの書いた夜の女神は悪魔と結ばれ、無数のリリンたちを生んだ。イブの前にアダムの妻だった。「銀鱗肺魚も束髪を梳り編み上げ靴を脱ぐ女も行間に息衝く証/彼方まで毒を及ぼす詩篇の不死焚書と火刑の熱狂を引き摺り/あろう筈がなくても血文字或いは同調を聞き入れぬ水の静謐/垂絹が謗る怠惰を知らず晩鐘は揺籃の波伝いへ紅薔薇を暈す/黒い帽子の人は槌を振り痙攣へ没した風を水盤から放った鳥」(P61-62「リリスの娘たち」)。

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