詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■佐相憲一さんの新詩集『サスペンス』(文化企画アオサギ)

■佐相憲一さんの新詩集『サスペンス』(文化企画アオサギ)を拝読させて戴きました。心より感謝申し上げます。ご出版、誠におめでとうございます。
 「弔ってやりたまえ/鼓動の来歴を」、「声もなく踊る死者に語りかけ」、「網にかかるのは/千年万年の家族図」…海の町の祭りの音や匂いや人や霊の熱気が、人類の初源の火の夢に揺らいでいるような凄い詩篇「漁村」に心惹かれ、子どもの頃の夏休み、祖父母の家、記憶の中の海の町、先祖に挨拶できました。
 ベルリンの壁崩壊の直前と直後の「壁の前に立っていた」、「壁の中に立っている」、今まさに読まれるべき詩篇と思いました。「二年後のU2ベルリンロックアルバム」(Achtung Babyですね。)や「ヴェンダースの映画の天使」という行にニック・ケイヴの歌を、私たちが放り込まれた世界のあらゆる「壁の中」、転換点が列挙されたP62~63にMerkmalというドイツ語の持つ意味を想起させられました。
 「ベルリンを壁を越えようとして射殺された人びとの呼吸」(「壁の前に立っていた」)が聴こえ、《指名手配》という言葉の持つ意味が変わってくるように感じました。「けれどもたえず世界の深部には人の心の流れがきらめいている」(「壁の中に立っている」)、「胸のなかに感じていたい/七八億個の心臓が動いている」(「指輪」)、心の流れの煌めき、世界のすべての人の心臓の鼓動…その音を聴き、感覚をとらえ、言葉で表現することこそが、真の詩人の仕事なのだと学びました。昨日は多くの人にとって、命の鼓動の重みを改めて感じさせられた一日でした。

 

f:id:loureeds:20220709123600j:image