詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■詩誌「蒐」第16号

■北海道の詩誌「蒐」第16号を拝読させて戴きました。ご恵贈賜り、誠にありがとうございます。
 現代詩手帖の詩誌評で「極光」35号に掲載の「何もいらない」(坂本孝一さん)が山崎修平氏により紹介され、「鱈」を魚+雪に部首を解体する試みが注目されていました。今回の坂本孝一さんの詩篇「黒い羽音の下で」の一行目は「越えてきた羽音は暗闇のほつれだろう」…黒い羽音とはヘリコプターやドローンの脅威でしょうか。暗闇の「闇」を解体した「音」の羽音が国境の「門」に迫ってくるようです。「狂気なこころざしが痩せて立っている/叫んでいるやつれた言葉のうわすべり」…きしむような悲鳴の音、「幾つもの約束をほうむられた」時代の変わり目の門に立つ私たち。
 田中聖海さんの「夜通し」、最終連に古井由吉の連作短篇集『白闇淵(しろわだ)』よりの引用が読みの手がかりかと感じましたが、「深夜レストランの扉から」や「あてどなく夜通し歩く択びは」といった詩行や、「忽ち消えていく一瞬の貌を探す」駅の別れ…モノクロ映画の『二十四時間の情事』(ヒロシマ・モナムール)の数々のシーン、眠らない街の問答を想起していました。詩行から立ち上ってくる情景の密度に圧倒されました。心より感謝申し上げます。

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