詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

「 帝 」  柴田望

「 帝 」
*

 〝転向〟など、問題ではない

 憲兵たちも理解できなかった
 「皇帝親政世界帝国建設」の理想
 「世界救済」の原理
 警察での取調べは慇懃鄭重を極め
 国士の待遇であった
 詩会では直立不動で国歌を唄う
 
 「僕こそ真の愛国者であった…」
 虚無と悲哀と哄笑と
 悲哀と暗号と麻雀の瞑想と
 生者と死者との団欒を愛す
 諧謔のセンス
 …中家金太郎が死んだ
 彼の愛する国はどこだ?

 天の岩戸…四頁が発禁処分を受けた
 「帝国」という官権の語を
 無頼漢の芸術に臆せず用いる
 国境観念の変革、民族的差別の解消、
 戦争の絶滅、世界倫理の確立…
 世界国民へ公約を為す(SDGs?)
 思想上の存在、保護された第一人者
 H・G・ウェルズの世界国家、バートランド・ラッセルの世界連邦、
 詩人ヴェリミール・フレーブニコフユートピア
 実現不可能な情緒としての世界維新!

 「大日本国権党」綱領を書き
 「私立軍官学校」の資金を集め
 『萬国太陽旗』発行記念集会
 「昭和の足利尊氏」と揶揄され
 デカダニズムは日を追うて増し
 強烈なジンを酙み交わし
 黒いリボンを焼き
 詩友・塚田武四の死を弔う
 
  無頼漢は、如何なる階級にも、属してゐない
    …瞬間的な無頼漢状態、
    ―刹那の永遠感、
    ―無頼漢の世界観である。
  宇宙主義の、これは暗喩的な見本である。
  (「無頼の哲学」『旭川新聞』昭和5年2月26日付)
 
 匿れ沼の一本の藘(よし)
 風立ち本性の黒い釘降る
 その歌を聴いたことはない
 その音に触れたことはない
 銀(しろがね)のしんしんと降る窓の灯り
 朝は毛(け)嵐(あらし) 隅田川魔子の影(シルエット)
 地球上に於ける各国分立と対抗と闘争の拒否と超越の思想を
 作図(プラン)を、実践に移す!

 《帝国》の《帝》が、消える
 
 …中家金太郎の病室にボトルを持ち込む
 真の愛国者が、ニヤリと笑う
 物語(イストワール)の終わり

 

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