❄北の聲アート賞 2024年度 第10回
🎊10月19日(土)、札幌市豊平館にて、盛大な「第10回贈呈式」を、無事執り行うことができました。
「サッポロ・アートラボ」(通称「SALA」)は、道民が自由に集うことができる「文化のアゴラ(広場)」を築くべく、「文化を読み、人と出会い、現代(いま)を知る」を基本理念にして、2010年4月から文化塾「サッポロ・アートラボ」を開講しております。加えて2012年より、全道各地で芸術文化の種を蒔いているアーティスト、団体(組織)を支援することを目指して、ジャンルを横断する「北の聲アート賞」を贈呈しております。「北の聲」は、北の大地において様々な分野で優れた創造的な文化・地域活動をしている「民(たみ)の聲」を象徴し、それを多くの道民に広めていくことを願った名称です。芸術文化を愛し、育てていきたいと願う民間企業、団体(組織)、個人の賛助・支援により運営しております。9月21(土)に開催された選考会議で、2024年度第10回「北の聲アート賞」は次の様に決定致しました。なお本年度から賞の選考は、「北の聲アート賞選考委員会」(委員長:八木幸三、副委員長・兼事務局長:柴橋伴夫、委員:飯塚優子、木下泰男、須田廣充、柴田望)が行っております。
第10回「北の聲アート賞」受賞者
🏆きのとや賞 花崎皋平(はなざきこうへい) 文学(詩人・哲学者)
🏆ビルダップ賞 山本泰子(やまもとやすこ) 音楽・ヴァイオリニスト
🏆アウラ賞 川村弥恵子(かわむらやえこ) 建築・建築家
🏆ハルニレ賞 澁谷健一(しぶやけんいち) 演劇
🏆審査員特別賞 田崎謙一(たさきけんいち) 美術(絵画)
🏆書の美賞 吉田敏子(よしだとしこ) 書・書道家 札幌市在住
★「きのとや賞」は(株)きのとや(ゴールド会員)、「ビルダップ賞」は(株)ビルダップ(シルバー会員)、「アウラ賞」はAURA ARCHITECTS(株)(シルバー会員)、「ハルニレ賞」は(株)日建社(ブロンズ会員)による賞となっております。★北の聲アート賞には30万円、北の聲アート奨励賞には15万円か10万円、北の聲アート特別賞には15万円、書の美賞には10万円、さらに賞状並びに記念品を贈呈します。
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🏆北の聲アート賞(きのとや賞)花崎皋平
■プロフィール
1931年 東京都文京区生まれ。
1964年から1971年まで、北海道大学教員(西洋哲学)、以後、文筆業。
著書 『マルクスにおける科学と哲学』(社会思想社、1972年)
『生きる場の哲学──共感からの出発』(岩波書店、1981年)
『静かな大地──松浦武四郎とアイヌ民族』(岩波書店、1988年/2008年)
『アイデンティティと共生の哲学』(筑摩書房、1993年/平凡社ライブラリー、2001年)
『田中正造と民衆思想の継承』(七つ森書館 、2010年)
『天と地と人と: 民衆思想の実践と思索の往還から』(七つ森書館、2012年)
『生きる場の思想と詩の日々』(藤田印刷エクセレントブックス、2022年)他多数。
詩集 『アイヌモシリの風に吹かれて』(小樽詩話会、2009年/株式会社クルーズ、2022年 ※第43回(2010年度)小熊秀雄賞)
『チュサンマとピウスツキとトミの物語他』(未知谷、2018年)
『生と死を見晴るかす橋の上で』(私家版、2020年)など。
翻訳 カレル・コシーク『具体的なものの弁証法』 (せりか書房、1977年) 他。
編著 『ヤポネシア弧は物語る 島々は花綵』(社会評論社、1990年)
■講評
「自分の生存の根底において超越的な働きに接しているという直感を抱いている。そして、それは新しい時代精神(エートス)への模索でもある。」(『生きる場の思想と詩の日々』)。
個人、歴史、社会、超越を包括する全体を考察する哲学者は、哲学的省察からの透徹な理論を社会的実践に結合させてきた。真の人間的連帯のありかたを模索し、自らの「生きる場」と社会変革の可能性を問い続ける。
「混迷と争乱を深める世界の中で、理性と平静さと希望を持ち続けるにはどうしたらよいか、平和と食べるものと日常の安全が村や町の民の一人一人に保障されるためにどういう努力をはらうべきか、聴くべき声に耳を傾けるとともに、みずから考え、そのための行動をささやかでも続けたい。」(『「共生」への触発―脱植民地・多文化・倫理をめぐって』)。
21世紀の人類の問題に対峙し、歴史を反省し、私たち自身が新世紀を力をあわせて切り拓くための気づきと勇気を与えてくれる、人類への(未来からの)まなざし。社会のシステムと国家の枠組みを超えて〈共生〉の関係を追求する営みの可能性。 私たちはどのような時代、社会、世界を創ろうとしているのか。精神の根底にある畏敬する静かな大地がはげしく問う。北の哲学者・詩人の教えが未来へ受け継がれていくことを祈念し、心からの感謝をこめて、北の聲アート賞を贈呈したい。
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🏆北の聲アート奨励賞(ビルダップ賞) 山本泰子
■プロフィール
北海道教育大学札幌校芸術文化課程音楽コース卒業。在学中、交換留学生としてフィンランドのシベリウスアカデミーに留学。日本クラシック音楽コンクール全国大会入賞。テラ弦楽四重奏団のメンバーとして98年、国際芸術連盟音楽コンクール室内楽部門2位(1位なし)。99年より「ショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲全曲演奏会」シリーズを開催し、第8回演奏会にて札幌市民芸術祭奨励賞を受賞。13年、日本シベリウス協会主催「シベリウス生誕150年シリーズ 室内楽Vol.2」(東京)に出演。14年、札幌音楽家協議会ハンガリー公演に参加。日本シベリウス協会北海道支部主催「アイノラのつどい」にてシベリウス弦楽四重奏曲全曲演奏会を完結。16年、「ゆうニューイヤーコンサート」(砂川)にてソリストを務める。同年、イタリアの「ロヴェレート・モーツァルト週間2016」に参加。またザ・ルーテル ホール(札幌)にてリサイタルを開催。優香クインテットのメンバーとしてSAPPORO CITY JAZZパークジャズライブコンテスト2017のファイナリストに選出される。クラシックをはじめ、ジャズやポップスミュージシャンのサポートなど様々なジャンルの演奏にも取り組んでいる。札幌大谷学園附属音楽教室、ヤマハ音楽教室の講師を務め後進の指導にあたる。日本シベリウス協会、ハイメスアーティスト、札幌音楽家協議会、Zongoraの会、各会員。
■講評
北海道教育大学札幌校芸術文化課程音楽コース在学中より交換留学生としてフィンランドのシベリウスアカデミーに留学し、高度な演奏技術と、より豊かな音楽的感性を磨いてきた。大学卒業後は室内楽やソロ活動などで多くの受賞歴を持つ。また、日本シベリウス協会に所属し、北欧音楽を道内に積極的に紹介している。自身のリサイタルをはじめ、札幌市内で活躍する演奏家を集め、数々のコンサートを開催。特に22年10月にはヴィヴァルディとピアソラの同題名である「四季」を弦楽合奏で聴かせ、音楽専門誌などで高評を得る。また、市内オペラ団体主催による歌劇公演では、演奏者を自ら集めた管弦楽団を編成し、コンサートマスターも務めながら質の高い演奏で数々の公演を成功に導いた。特にL・C・アルモーニカによる歌劇「アンドレア・シェニエ」や縄文オペラ「ノンノ」では、管弦楽から重厚なサウンドを作り上げた。さらにクラシック音楽以外にもジャズやポップスミュージシャンのサポートなど様々なジャンルの演奏にも取り組み、優香クインテットのメンバーとしても活躍している。今後、その高い音楽性を生かし、多彩な演奏活動を通して北海道の音楽文化発展に寄与できる人材として大いに期待でき、ここに推薦するものである。
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🏆北の聲アート奨励賞(アウラ賞) 川村弥恵子
■プロフィール
札幌市生まれ。1989 年北海道大学工学部 建築工学科 建築計画専攻卒業。(株)入江三宅設計事務所・東京入社。1993年 AssociatesⅢ アメリカ・コロラド州勤務。 1996年帰国後、TAO建築設計設立。2000 年有限会社 AO 建築設計と改組 現在に至る。【受賞歴】2000 年北海道建築士事務所協会札幌支部「きらりと光る北の建築賞」(2002 年・2016 年) 受賞 2016年「帯広市まちづくりデザイン賞・優秀賞」受賞。【活動歴】住宅性能向上委員会 にて定期的に 一般向け「住宅設計教室」 及び、 建築家プラザ「 LIV 」 にて 、住宅相談・アドバイスと共に講演・勉強会 など 普及 活動 に努める 。【 資格 】一級建築士登録。 JIA 登録建築家。BIS( 断熱施工技術者 認定 登録など。【所属】一般社団法人日本建築家協会など。【設計作品】「黒籠の家」 住宅 ;2003 年 札幌市 、「 EDGE HOUSE 」 住宅 ;2010 年 札幌市 。「 boiler 」カフェ事務所 ;2018 年 札幌市 、「 TAOYA 」・「 KN COURT 」、事務所・自邸 ;2017 年 札幌市等
■講評
川村は、三 年間アメリカでの生活経験をし、現地での 勤務 を経て帰国後、 札幌 にて設計を開始している。 彼女の建築作品には、ヨーロッパや中近東などに起源をもつ 「 コートハウス 」という 厳しい外部環境や狭小都市空間におけるプライバシー確保 する 設計 手法によった作品の多さに 彼女の知る手掛かり がある。北国北海道において厳しい自然環境としての冬期 間 を含 む 四季をどのように設計に取り込 むかが彼女の「人の住処と自然との境界」としてのエッジに意識のテーマ にあるようだ。道内の建築家 に於いて、これほど徹底したこれらの 作品数を試みている女性 建築家はいない 彼女の建築デザインには、外 部に対してシンプルで明快なファサード の意識と内 外 部開口に対し、「開くと閉じる」を 意識した中庭を介した動線で新たな「 MAGRI YA 」と称する多彩に配されたコートの回遊に表徴されるユニークな視座の意識は 興味深い。更にその 外観デザインの 鋭いエッジの効いた 建築の輪郭 において 、厳しい北海道の自然に果敢に立ち向かい自然 に 切り込むような 気概のある建築意匠 がなんとも清々しい。それらの計画には 北海道ならではの特徴や生活への配慮と工夫 が雪国の技術的対処として庇の在り方や 除雪に対するヒーティング設備など工夫を忘れな い。彼女のアメリカでの生活体験その建築設計に 取り組 む 姿勢と、北海道を深く掘り下げた建築創作にみる類い稀な創造性の努力を評価するとともに北海道の都市型自然環境への意識を「 コートハウス 」に見出した川村の 誠実さと一方、市民への地道な普及活動とも相まった 取り組む姿勢に「北の聲アート奨励賞」を贈りたい。
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🏆北の聲アート奨励賞(ハルニレ賞) 澁谷健一
■プロフィール
1953年札幌市生まれ。高校時代に高文連石狩支部合同公演で演出部として活躍し、地区コンクールの勝敗より学校の垣根を越えて創り上げる合同公演の力に強く惹かれ、後の創作する作品に反映される。大学時代は午後の演劇部の部活動を終えると、夜には高校演劇の仲間達と結成した、アマチュア劇団「統一座」の代表として演劇三昧の日々を送る。その後新たな仲間を加えて二番目の劇団「シアターⅡ」を結成、劇作家・演出家として現在に至る。劇団を立ち上げてから直ぐに在札の劇団の推薦を受けて道内の協議会である「北海道演劇集団」に加盟し、全道の劇団から劇団運営や創作活動を学び、平成元年には第四代理事長に就任、理事長を交代してからは創作劇運動の指導者的な存在として、平成25年より創造委員会委員長に就任し、現在に至る。
澁谷健一の作品群:今まで一般公開された作品だけで71作品在り、明治時代に北海道に流れて来た旅回りの一座が、行く先々で歴史的事件に巻き込まれる『石川一座の旅』シリーズや、遊女から市議会議員にまで上り詰めた女性を描く『岬を駈ける女』(教育文化財団プロデュース)、幕末の維新戦争に破れた会津藩の士族のその後を描く『会津藩、かく戦へり』(琴似屯田兵入村140周年記念事業の一環として実行委員会による再演)等、出演者40人を超える大型合同公演の作品が10作品、全道各地の親子劇場から依頼されて出張公演を重ねた「貧乏神と福の神」等の子供向けの作品が14作品、そして71作品の内、次第に面白さが認知され出した結果、他劇団や財団法人から依頼された作品が約半数を占める、33作品にのぼる。
■講評
2015年11月、琴似屯田兵入村140周年記念事業の一環として上演された『会津藩、かく戦へり』終演後のロビーは、「こんなお芝居が観たかった」と口々に語る街の人たちの笑顔があふれ、熱気でわきかえっていた。劇作家・澁谷健一が2002年に自ら主宰する劇団で初演したこの作品は、戊辰戦争とその後の時代を凛々しく生きた会津の女たちと若者の物語だが、ほぼ同じテーマを扱ったNHK大河ドラマ『八重の桜』(2013年)よりずっと前に書かれている。西区琴似地域ぐるみの催しとして再演されたこの時の公演は、演劇と地域の関わりについて深く認識を新たにする機会となった。澁谷の作品はどのように創作されるのだろう。例えば2023年に上演された『江戸吉原遊廓 花魁白扇』の場合、妓楼の2階から啖呵を切る花魁の浮世絵から着想を得たという。まず物語の核となるひとつのシーンが定まる。その背景となる歴史を図書館に通い詰めて調べ上げ、資料を掘り下げ、時代考証を重ね、そこに大胆なフィクションが加えられ、人情の機微に触れる名シーンが組み込まれてゆく。そのような緻密な作劇の技と、「澁谷節」とも呼ばれるサービス精神満載の娯楽性の中に、人間と社会を見つめる視線の筋が通っている。そのような作品を、新派やNHKやキー局の作家ではなく、札幌在住の劇作家が数十年に渡って書き続けていること、そして、長年渋谷と名コンビを組む演出家・山根義昭(劇団新劇場、2023年6月逝去)と共に、様々な枠組みを模索しながら大規模公演を実現し続け、根強い観客に支持されていることは、いまあらためて広く知られ、顕彰されるべきことだと思う。澁谷の劇作品は歴史大作だけでなく、実に様々なテイストのものがある。すすきのの片隅に暮らす庶民の哀歓を味わい深く描く初期作品『四畳半幻燈』シリーズや、満州を舞台とする浪漫活劇、家族の情景を描く短編やコメディー、青少年・子ども向けの作品群等々、いずれも観るものが励まされ、シャンと生きようとする背筋に手を添えてくれる。生きにくさが重層する世相に、どんな演劇を届けることが出来るか。演劇は何が出来るか。そんな大上段の問いも、まずは澁谷の芝居を観て考えることとしたい。
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🏆書の美賞 吉田敏子
■プロフィール
後志管内共和町の赴任校で、馬場怜氏に導かれ本格的に書を始める。
1977年、墨人会へ加入。以降毎年(春季:東京都美術館、秋季:京都美術館)北海道墨人展へ出品。
1981年、第40回墨人展で墨人賞を受賞し会員に推挙される。
1983年、森田子龍(京都)に師事。毎月のように上洛して書の神髄を伝授される。
2003年、「札幌の美術2003 19○+1の試み展」(札幌市民ギャラリー)へ選抜される。
2008年・20013年、「交錯する眼差しの方へ」Ⅰ・Ⅱへ出品
2009年、『臨書 森田子龍に学ぶ』(上・下巻)発刊
2010年、個展「《寛》と付きあう」(札幌コンチネンタルギャラリー)
2012・2013年、「The mono show」(上海:書と彫刻のコラボレーション)
2013年、個展「書・墨人なるもの」(東京:銀座大黒屋ギャラリー)
2017年、「NAU21世紀連立美術展ブース個展」(東京)
2018年、「NAU21世紀連立美術展in paris」(フランス)
2018年・2019年・2022年、荒野洋子・吉田敏子二人展」
■講評
同じ赴任校で偶然一緒になった馬場怜氏の書に強く惹かれ、晩学の書道を始める。師の勧めもあって、京都へ本部を置く墨人会へ入会し、「墨象」と言われるジャンルで長い間活躍されてきた。1983年から森田子龍氏に師事し、16年間の指導の中で千数百点に及ぶ臨書を残し、その膨大な指導の宝庫を「臨書 森田子龍に学ぶ」(上・下)巻という形で発刊し、広く世に知らしめた功績は大きい。
「札幌の美術2003 19○+1の試み展」(札幌市民ギャラリー)では佐藤庫之介氏(美術評論家)により選抜され、「恵」ばかり10点を制作順に並べた。「筆と体が一緒に動いてくれ、こだわりなく書けたものが残った」とする作品群は壮観であった。
その後は、個展「《寛》に付きあう」(コンチネンタルギャラリー)の開催や、東京銀座での個展「墨人なるもの」、上海やパリへの作品出品、荒野洋子氏との二人展(ギャラリーエッセ)、「佐藤庫之介-追悼展-」(大丸藤井セントラルスカイホール)、など目覚ましい活躍ぶりである。その書は、時に渇筆を多用した荒々しいものであったり、静かな深く沈んでいくような思索の書であったり、墨の一滴をも生かし切る鮮烈な白の空間であったり、「己のいのち」を見つめながら、森田子龍が言うところの「書は生き方のかたち」を実践している。北海道のみならず全国的に見ても、独自の世界観を作っているまれな作家であり、今後ともますます期待するところである。
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🏆審査委員特別賞 田崎謙一
■プロフィール
網走市字卯原内(ウバラナイ)に生まれる。網走市小学校に入学、その後父の転勤で余市、木古内、中標津、江別と転校。江別高校卒業後、美術の道を模索しつつ1968札幌美術学園に入学するが、馴染めず翌年上京。東京都新宿区下落合に部屋を借り「新宿美術研究所」「高円寺フォルム洋画研究所」に入所。美大を目指するが挫折。アルバイトをしながら独学で制作に励む。その後数回住居を変える。第38回独立展に入選、その後も出品を続ける。初個展は、札幌時計台ギャラリー、その後東京資生堂ギャラリーでも個展。1979年、第34回全道展で協会賞:田辺三重松賞、1985年、東京から北海道へ。63歳までビルの設備管理の仕事に就きながら制作に専念する。第56回独立展を最後に退会。全道展中心の制作に切り替える。全道展会員有志7名と、「櫂展」を結成し、欧州への研修の旅(数回)をし,共に研鑽に努めなにより実験的作品に挑んだ。2009年にエジプトへ行き、イスラム文化に触れ強いカルチャーショックを受ける。大作「埃及幻相」を構想する。2024年大通美術館の全室を使い、1969-2014「四つの展開」田崎謙一展を開催する
■講評
画家田崎崎一は、2024年に大通美術館全室を使い、55年間に制作した主要作品を展示し質の高い展覧会を開催した。その後、絵画ホール・松島正幸記念館(岩見沢)とアートホール東洲館(深川)に巡回した。タイトルは、「1969-2014『四つの展開』」とした。田﨑は、混迷する現代世界の変動を凝視しながら、それを自らの絵画に投影させてきた。今回はそれを「4つの展開」で統括した。仏教美術の図像学を援用し、そこに身の人間像との斬新な合致を試みた70年代。デジタル化により電子が人間存在を浸食している情況を憂いた90年代。クローン羊が誕生し、人間に応用可能となった生命の危機を描いたclonebabyシリーズ。そしてコロナウイルスが蔓延した2020年以降の社会。それが契機となりatmosphereシリーズとなった。このように田﨑は、「生とは何か」「死とは何か」を問いながら、その都度他の画家とは異なる表現方法を編み出しながら、真摯に絵画空間にみずからが培った思想を負託してきた。「普賢延命菩薩図」では、巨大な画面空間に様々なイメージを挿入し、斬新かつ現代性に富んだ「仏画」を開示していた。特に構図の大胆さが眼を奪った。一転して、群棲シリーズでは異形の図像に挑んだ。近作atmosphereでは、青のゾーン空間に不思議な生命体が宿った未来図を描いてみせた。このように田崎が構築する絵画世界は、独創的なイマジネーションと、優れた筆力と豊かな色彩感覚に支えられた描写力が見る者を圧倒するパワーに満ちている。だからこうはっきりと評価できる。まさに現代絵画の可能性を存分かつ大胆に切り開いている、と。