詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

《跼天蹐地》につき  柴田望

《跼天蹐地》につき
*

二階から玄関までの階段を這いつくばって舐めるほど磨き
天に頭がつく&地に足がつくのを恐れ
年に一度の大掃除 やりたがる人のいない役割
分担を愛する慶びに感謝し 下駄箱の鉄板の泥を丹念に落とし
新品のタオルで洗剤を使わず 玄関の神秘石を磨く
 
一年前に私が掃除して以来誰も手をつけていない
人の背丈ほどもある緑色のその石は 釈迦の手のひら 雲の彫刻の台座も
冷たい水で磨けば光が映る お客様を迎える場所なのに石の裏側は壁も天井も
油交じりの埃や蜘蛛の屍骸だらけ 隅をやった分だけ真ん中は決まる 
 
自発性の育ちにくい時勢ではあるが ほとんどは後輩だから 
私がやっているのを見ると手伝ってくれるだろう 十五年前、初めて訪れた玄関の
石の印象は強烈だった 静かな床と階段を初めて汚して面接を受けた
入社時よりはましになったつもりが 手のひらを回ってるだけ  
玄関の床も手のひら四つん這い汗と吐く息で磨き
先に靴底を洗うべきであった学びに感謝するだけ
 
東の言うことを聞けば震える怒号で西に叱られ 西の命令を守れば東に悪評を流され 
タテ社会見る側の色づけ 目の前の泥や埃を拭くのに多忙でそれどころじゃないし
バケツの絞り水ほどお役に立てれば身に余る幸せ
繰り返しに徹し 全体としての方針が定まらない状態にさえ感謝
少なくとも一部にとっては 発言の開かれた社会だから
 
厳しい教えを装い 私欲の意図を剥きだし 弱者を狙って
怒鳴りつける悪質な苦情客や 不正で両手真っ黒な即席の上司は もういない 
私からではなく、あらゆるご縁からの報いを受けてこの玄関から去っていった 
あの怒号は私にではなく 宇宙に対し ご自分に対し ご先祖に対し 発せられた 
まっすぐに ご自分の顔を汚していた 
 
今生で魂を磨く貴重な機会を戴いたことに頭を下げ あなたの顔を清める 
這いつくばって 洗剤で 水で 会社のではなく家から持ってきた新品タオルで
丹念に乾拭き仕上げます 誰もが嫌がるおかげで 
毎年私しかしない祈りを 密約を明かさないために
 
2018-12-17.柴田望

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「タコの山」 柴田望 2018-12-13.

タコの山
* 

タコの山のような坂道を
ホテルを目指して進みます
来たはずの細い道では
なかなか辿りつけません…
語弊を恐れず申せば
小樽ってそういう街です
事務長時代、塾長と余市スクールへ行く途中
蘭島のあたり
昔、鳥居や櫓があったはずの場所が
どこにも見当たらなくて
「それを探すのが事務長の
人生のテーマかもね」などと言われ
まだブラック企業という語彙もなく
朝から朝まで ほぼ二〇時間労働
子どもたちだけが生き甲斐でした
夏期講習の募集爆発して
塾長が社長になった秋
そいつの不正を暴いて刺し違えました
(飲めないのにスナックへ連行されるのが嫌でした)
水族館の駐車場をつき切って
係員に呼び止められて尋ねました
ホテルへはどう行きますか?
くねくねと見慣れた曲がり道は
軟体の触手でしょうか?
吸盤のゴツゴツ隆起のある
人造石研ぎ出し仕上げの胎内
ぜんぶ手作りで 図面は絵です
鉄筋を曲げつつタテヨコに溶接しながら
形づくる彫刻の滑り台です
故郷の岩見沢東山公園にもありました
子どもの頃、よく遊びました
…随分前に撤去されました
てっぺんから見下ろす水面は
相変わらず鱗のようにぬめる
*

2018-12-11.

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■「コールサック」96号(2018年12月号)の書評に、「フラジャイル」同人、小篠真琴さんの第一詩集『生まれた子猫を飼いならす』が佐相憲一さんの書評にて大きく紹介されております。誠に、ありがとうございます。

■「コールサック」96号(2018年12月号)の書評に、「フラジャイル」同人、小篠真琴さんの第一詩集『生まれた子猫を飼いならす』が佐相憲一さんの書評にて大きく紹介されております。誠に、ありがとうございます。
*

 「メルヘンのようなやさしいタッチのポエムと硬質な現代詩考察の、わざとアンバランスを装ったかのような融合を見せて、それがこの詩人の詩世界の特長となっている。子猫と共に世界の風を感じる、というシンプルな読み方もできるし、かなりもうヤバくなっている人間文明の矛盾の根本をおのれの内部に取り込んで、小さな命の側から原点を探っているとも読める。」まさに!小篠作品の魅力を見事に照射して戴き、その手法の達成、たどたどしい一歩を踏み出したことへの応援を賜り、眦熱く、感謝の限りであります。
*

 我々「フラジャイル」同世代同人、まだまだ足りないところもあるかと思います、このように大変有難い先輩詩人の皆様の貴重な御指導や励ましの御言葉を戴き、どんどん成長していかなければなりません、ですが、決して安直な完成に落ち着くのではなく、形式の達成を目指すのでもなく、未熟である状態のときをいつまでも失うことのない成熟に向かっていきたいね、と話しております(せっかちに薔薇を求めて安くあがるな。…岡田隆彦)。 佐相憲一さんの書評のタイトル《フレッシュ、いつまでもフレッシュでいたい》を胸に☆ 小篠さんの感性が応援されたことが何よりも嬉しく、北海道は暴風雪に覆われておりますが、函館西波止場で小篠さんと会った暑い日のことを思い出しながら、胸熱く、心より感謝申し上げます。
*
 
 「ほっといたら私たちの生活、みんな完成させて、完成品でとりまかれてるじゃない。それを壊す、っていうんじゃなくて、違う方向へ違う方向へ、こう、ずらすでもないんだなあ、……。達成させないほうへ持っていく。覚えといてくださいね。短歌や俳句や小説なんかと違って、現代詩っていうのは、もうボロクソに言われながらもやってきたっていうのは、その、未完成の状態、未達成のような状態、その可能性に向けての努力してるんだ。で、それが物凄くいま必要になってきていると思う、……」 (~吉増剛造、《詩》、《語り》、《朗唱》の夕べ ~より。2018.7/8北海道北見市にて)

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■『小樽詩話会』会報No.619(2018年12月号)より

■『小樽詩話会』会報No.619(2018年12月号)より

「 顔Ⅶ 」
*

 ――最初の記憶 
まだきみは話せない 
新しく着せられたレースの生地が肌に擦れて痛いのに 
(いまは言えなくても、
大きくなったらきっと言おう) 
言葉の無い鮮やかな部屋で永久に誓う 
赤と白の証拠写真がここにあります

電話が鳴る 
お母さんがショックを受けている 
聴かなくても親戚の顔が見える 
病院運ばれて…治らないかもしれない… 
どういう処置が必要かなんて 
子どものきみは知らない 
知らなくても事細かに言える 
恐ろしいのはどうなるかってこと…

果たしてきみの告げた時刻に
専門治療は施され 
預言通りの快方へ向かう 
悪戯を遥かに超えてしまった
笑ってしまうような 怒ってしまうような 
困ったような 呆れちゃうような
(どうしようもない) 
大人たちの群れ

  *

小さなきみの叫び声が姉さんには聴こえなかった(かもしれない)
小さなきみが泣いていたから 早く家に帰してあげたくて
夢中でペダルを漕いだ(かもしれない)
大きなダンプが尾いてくる
小さなきみをダンプから守るためにスピードをあげた(かもしれない) 
小さなきみは自転車から転げ落ちそうな体勢で
柔らかいお菓子のような幼い片足を地面に引き摺っている
小学五、六年生位の女の子がペダルを漕ぐ横顔
二歳にも満たないきみを乗せて風を切る
この紙の余白に鮮血がみるみる滲まないように文字を埋めるね
靴はもうどこかへ消えてしまって
呼びかける無数の声を振り払おうとしていた(かもしれない)
ダンプの運転手が見かねて 「おい、足を引き摺っているよ!」
ようやく車輪は止まる ――幼い足を赤い血まみれにして
妹が転げ落ちる
この紙の余白に涙がぽたぽた滲まないように
行間も読めないくらい文字と記号埋めるね
泣き叫ぶ妹の顔を見て 同じくらい大きな声で 姉さんは泣いた 泣きながらお母さんを呼んだ
姉さんのお母さんは ずっと前にどこかへ行ってしまった
姉さんのお母さんは優しかった(かもしれない)
お父さんと、姉さんと、きみのお母さんと、きみは病院へ行った
お医者さんは「こりゃひどい」
破れた皮膚を糸でちくちく縫った
――元通りには治せない(かもしれない)

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■詩誌「フラジャイル」第4号編集中です! 「12月24日 第2回あさひかわプラタナス通り朗読会 @旭川」のことも

=予告編=

■詩誌「フラジャイル」第4号編集中です!(間もなく入稿、発行目標は12月20日)…現在、編集委員会の皆様と絶賛最終校正中であります。

■木暮純が出演(柴田もピアノ演奏)致します、「12月24日 第2回あさひかわプラタナス通り朗読会 @旭川」には小誌発行間に合いますよう、準備を進めております。
https://mitsui-publishing.com/event/20181017
今日、図書館でチラシを見かけました。こちらも、ぜひ☆

mitsui-publishing.com

■フラジャイル・ダイヤリー 2018年8月~

・8月1日 詩の歴史ある喫茶「ちろる」(旭川市3-8)にて詩談(柴田・木暮・吉田)。
・8月11日 函館西波止場のスターバックスにて、小篠真琴さんと柴田再会、ランチ詩談。
・8月19日 小誌第3号を発行! ありがとうございます。
・9月2日 日本最古の鰊番屋、小樽祝津の白鳥番屋にて、支倉隆子さんの詩劇「ピングリーン人、アフリカに渡る」+ポエーマンズ開催(柴田・木暮・山内)。支倉隆子さんの詩をもとに制作した動画を二編上映。「古い夏/小樽」https://youtu.be/l44KcpecGDo 「アマリリスhttps://youtu.be/Ys2AWiKhgOY

youtu.be

 

youtu.be・9月20日 小樽詩話会の例会に参加。森れいさんのお話、石にまつわる詩。遠い距離、長い時間を超えて石はやってくる、果てしないロマン。(柴田)
・9月22日 「福島を詩の街に」コンテストで小篠真琴さんの詩「海がみたい」が優秀賞に!
・9月26日~10月1日 展示〈「青芽」から「フラジャイル」へ〉 ジュンク堂書店旭川
・9月29日 同会場にて記念朗読会〈「青芽」から「フラジャイル」へ〉 (柴田・木暮・二宮・山内・荻野・佐々木・冬木・林・小篠) 懇親会は2条の地下の居酒屋「わん」、大いに盛り上がる。
・10月2日 旭川詩人クラブの詩画展開催。11月22日まで。(柴田・木暮)
・10月2日 「ハナビト ト 火ノ刺繍」(テンポラリースペース 札幌市北区北16西5)。開館同時に…早くお邪魔してしまい、申し訳ございません。時を忘れ、全てに魅入っておりました。(柴田)
・10月3日 小樽文学館トークイベント「吉増剛造 オタル、髭箆(イクパスイ)、瀧口さんのこと」 玉川館長の御話、木ノ内洋二さんのこと。大切な宝箱のような忘れられない一夜。(柴田)
・10月21日 (公財)北海道文学館 文芸対談Ⅱ「吉田一穂をめぐって」(講師:吉増剛造(詩人)、酒井忠康美術評論家世田谷美術館館長))を拝聴。「、」「。」の秘密、また、一穂の筆跡に「絵を断念した不思議な霊気」が感じられるという御話、感銘と衝撃を受けました。(柴田)
・10月31日 第52回北海道新聞文学賞にて、小篠真琴さんの詩集『生まれた子猫を飼いならす』が候補作入選!
・11月4日 (公財)北海道文学館にて、朗読会「吉田一穂への最弱音(ピアニッシモ)」に出演(柴田・木暮)。髙橋純先生(小樽商科大学名誉教授)がフランス語に翻訳された「母」を朗読の際に流す動画を柴田が制作させて戴き、この日上映(https://youtu.be/SzMCUbEQzQ0)。(冬木さん、澤井さんも会場に。)

youtu.be・11月6日 旭川詩人クラブの「詩とあそぼう」にて即興詩披露(柴田・木暮・荻野・佐々木・山内・冬木)。
・11月10日 北海道詩人協会「北の詩祭」にて小熊秀雄詩を朗読(柴田・小篠)。東延江さんの講演『旭川時代の小熊秀雄-交友関係を中心に』に胸熱く。(山内さん、澤井さんも会場に。)
・11月22日 札幌すみれホテルにて、帷子耀さん、金石稔さん、阿部嘉昭さん、三氏の詩集出版を祝う会が盛大に執り行われる。おめでとうございます!!(柴田・木暮)
・11月28日 第56回有島青少年文芸賞。昨年最優秀賞を受賞された吉田圭佑さんの詩作品が今年も入選。佳作「ステレオ図法にて」。おめでとうございます!

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「詩と思想」12月号 《地域からの発信―北海道》 フラジャイル 柴田望

■全国誌「詩と思想」12月号(土曜美術社出版販売株式会社)に、《地域からの発信―北海道》として、旭川の詩の取り組みについての柴田のレポートを、なんと4ページにもわたり、御掲載を戴いております。誠に、ありがとうございます。

■戦後72年続いた詩誌「青芽」のこと、後継誌「フラジャイル」創刊の経緯、尊敬する先輩詩人の皆様とのたくさんの出会いに恵まれまして、道内の様々なイベントに参加をさせて戴き、勉強をさせて戴いておりますこと等、書かせて戴いております。大変貴重な機会を賜り、心より御礼申し上げます。
*

帷子耀さん、金石稔さん、阿部嘉昭さんの詩集ご刊行を祝う会 11月22日(木)

■11月22日(木)17時より、帷子さんの詩集と同じすみれ色の札幌すみれホテルにて、
帷子耀さん、金石稔さん、阿部嘉昭さんの詩集刊行を祝う会が行われ、盛会のうちに終わりました。

帷子耀習作集成』(思潮社) 帷子耀
『ガキたちの筏』(響文社) 金石稔
『日に数分だけ』(響文社) 阿部嘉昭

 御出版、おめでとうございます!!!

素晴らしい、夢のような一夜でありました。この日が来るのを待っていたかのように、季節が変わり、根雪となりました。

 オープニングにて、柴田が帷子さんの「へんぺん」を朗読させて戴きました。暗記しておりましたが、ご本人の前で恐れ多くも気恥ずかしくて、もの凄い緊張致しました。現代詩手帖10月号を片手に、会場を見ながら読みました。くつがへと、ウララカと、ルビを、振りました。原稿用紙一枚で、詩や言葉の神髄に触れられる作品と驚嘆しつつ、読ませて戴きました。

 嵩文彦さんの司会でした。会場で配られたパンフレット、嵩さんの文に曹操の短歌行が(對酒當歌 人生幾何 譬如朝露 去日苦多)・・・詩誌「騒騒」にかけておられ、さすがです!!そんな錚々たる詩人の方々がご来場されていました。
 68年の当時のこと、帷子さんが現代詩手帖賞を最年少でお取りになられたとき、同時に受賞された詩人山口哲夫の詩集『童顔』の秘密のこと、詩誌「騒騒」創刊と活動の広がり、今回の帷子さんの詩集刊行に至る経緯など、御話興味深く拝聴致しました。髙橋純先生(フランス語)と木田澄子さん(日本語)による、吉田一穂「母」の朗読!!形容詞のご説明も。細田傳造さん、船越素子さんの御話も楽しく、何もかもがもの凄い勉強になりました。この場に参加させて戴き、本当にありがとうございました。

 7月8日の北見では、吉増剛造先生、帷子耀さん、金石稔さん…BowieとIggy PopLou Reedの3ショットのような、凄まじい会でありました。今回はIggy PopLou Reedと、もっと若い世代、例えば私にとってはリアルタイムなオルタナの神Sonic Youth?やPixies?との共演?? すみません、幻影に一人浸っておりました。ジャンルの方向性を決定づける程の大きな存在の皆様。(68年を脱却している・・・という阿部嘉昭さんのお話に。現在形の偉大なミュージシャンも、シーン全体がもっとも熱かった時代だけじゃなく、そこを脱却して、その後の活動でもオリジナリティを発揮し、時代の最先端で在り続けている。懐メロじゃない。)
 Rock好きの私には、父が18歳だった67年は、サージェントペパーズとか、ドアーズの1st、2st、バナナジャケット、ジミヘンの1st、フリークアウトとか、凄まじい年ですが、68年はぴんと来ていなかったのですが、2001年に買った現代詩手帖が未だに家にありますが、その中で四方田犬彦さんが書いておられた伝説的詩人、帷子耀さんや金石稔さんに直接お会いでき、本にサインも戴けるだなんて…幸せすぎて、四方田さんの文を読んだ17年前には(小樽に居ました。)想像もしておりませんでした。そもそも帷子さんの詩集が世に出るだなんて、誰も想像していなかったのですが。唯一人、阿部嘉昭さんはご想像されていたのですね。あの時、北川透さんが札幌白石区プランテーションでお話された北海道横超忌の懇親会、喫煙スペースのあたりで? そんな御密談が、歴史を動かしていただなんて・・・感謝の限りです。

 静かなお知らせですが、次号の『フラジャイル』には、金石稔さんより御寄稿戴きました素晴らしい作品を掲載させて戴きます。今回の御詩集のスピンオフ作品!ぜひ、ご期待くださいm(._.)m

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