詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

顔 Ⅵ

顔 Ⅵ
*

 ―最初の記憶― きみはまだ話せない
新しく着せられたレースの生地が
肌に擦れて痛いのに
言葉を知らない
何故、そんな顔でぐずるのか
(いまは言えなくても、大きくなったらきっと言おう)
言葉ではない鮮明な場所で
永久に誓う
ほら、赤と白の 
証拠写真がここにあります

    *

電話が鳴る お母さんがでる
(ショックを受けている)
受話器の向こうで語られる会話を
聴かなくてもきみには見える
親戚の誰かが病院へ運ばれて
治らないかもしれない
どんな病気でどういう処置が必要かなんて
子どものきみは知らない
知らなくても事細かに言える
恐ろしいのはこれからどうなるかってこと
「大丈夫だよ…」 
果たしてきみの告げた時刻に
治療は施され 予定された恢方へ向かう
知っていることを 知らないと思いこませる
知らないと思いこんでいることを 知らせる
(悪戯を遙かに超えてしまった)
小さな予言を 笑ってしまうような
怒ってしまうような 困ったような
呆れたような (どうしようもない)
大人たちの群れ
*

2018-07-31.柴田望

f:id:loureeds:20180804142714j:plain

f:id:loureeds:20180804142724j:plain

f:id:loureeds:20180804142737j:plain