詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■詩の朗読会「一穂への遥かなる最弱音(ピアニッシモ)」
 開催日時 2018年11月4日(日)13:30~15:30 
 会場 北海道立文学館講堂  協力 北海道詩人協会
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■11月4日(日)、早朝より木暮純さんと二人で旭川を出発し、10時ごろ北海道立文学館に着。早めに着いて準備をさせて戴きました。学芸員の吉成さん、寺地さん、大変お世話になりました。本当にありがとうございます。会場設営、楽器や動画の映写など、準備をさせて戴きました。
 髙橋純先生の動画を使った朗読、そして瀬戸正昭さんのシューベルトピアノ曲を使った朗読のリハーサルも…
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■13時前から次々と御来客、60名定員のはずが、なんと80名以上の満席、長屋のり子さんの司会で、道内の詩人たちがお気に入りの吉田一穂の詩とその詩にちなんだ自作の詩を朗読します。
 最初に画家・詩人の大島龍さんの「前夜」、この詩に関する興味深い神話的講義。加藤多一さんは「母」のはずが…「白鳥」を朗読。茂吉の母も。フラジャイル同人の木暮純さんは「薔薇」と自作詩「それがそのまま それである幸せ」「孤独の切岸」を披露! 一穂と対極…と言いながらも、何故か合う? 言葉の平易さと、それが奏でる硬質さとの何とも言えない距離の旋律が聴こえ、感じられたから…
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「それがそのまま それである幸せ」 木暮純
 

苦しみのない世界
苦しみのない自分
忘れたいことも、すっかり忘れて
うきうきして歩く自分
歩く道は道のままに
空の雲は雲のままに
それがそのまま それである幸せ

ほかの意味とか比喩は持たない
それが指し示すものをではなく
それそのものを見る
自分は自分
あなたはあなた
雲は雲
薔薇は薔薇

悪口ではなく、
わたしの歌を歌ってくれている
わたしも、それにつられて
笑って歌う
歌は歌
歌は薔薇を意味しない
それがそのまま それである幸せ

真実を少し織り交ぜた嘘とか
人によって使い分ける
大人の振る舞いとか

でもそれは
自分の利益を追求するだけの欲望
あの透き通った空の雲を
雨雲にするだけのこと

雨雲は雨雲
薔薇は薔薇

暗喩とか仄めかしとか
メタフィジックの無い世界

わたしはわたし
あなたはあなた
道は道
雲は雲
歌は歌
薔薇は薔薇
それはほかのものを意味しない

苦しみのない世界
苦しみのない自分
薔薇の美しさがあるのではなく
美しい薔薇がそこにある

それがそのまま それである幸せ

それがそのまま それである

幸せ
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■次の木田澄子さんは「トラピスト修道院」と、この日JRの中で書かれた即興的自作詩。創作現場を見ているようでした。卓越した詩人の朗読は続き、桜井良子さんの「暦」、着物姿に見惚れてしまった佐藤裕子さん「岩の上」、その後、柴田が吉田一穂の時代の「都市素描」を、現代の音楽Squarepusher - 'Dark Steering' taken from 'Ufabulum' を用いて、現代の都市と重ねる試みを行いました、次の動画です。
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「都市素描」吉田一穂 「粉」柴田望 ■詩の朗読会「一穂への遥かなる最弱音(ピアニッシモ)」20181104 
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「 粉 」 柴田望
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過大広告の紙片は舞う
窓ごしリングで殴りあい 
勝ったほうのぶんかに染められていく
オカシイだろう、地球のほうが回ってるだなんて
法律で許されないはずだ
あんなに見事に空中に織りこまれて
電柱ひとつに数百本ものケーブル 
短い音符のクラクション散らす
あんなに短い音符で
一秒に何兆回も会話している
信号待ちの表面張力
巣にたかるバイク積もらす
六車線もの日本車の隙間を

( 街
  白金の幾何学

  高層建築の光の祝祭
  あゝ鮮麗な空間の形 )

ソフトクリーム液化し検索を枯らす
副音声かき混ぜ国境は無いのに
水着なのは白人と日本人だけ
腕まくり焼印のあたりから黄昏 皮膚は育つ
故郷の戦史を遡り
ふりがなのごとくナイフ緩ませ 
アルファベットのお土産を売る若者を背に
仲間たちはフキダシくり抜かれて
夜の街へ溶けていった

( 不眠の華に晝く屋根裏の月 )
( 有機解體の頽廃期へ分裂し下降していく )

※()内は吉田一穂の作品「都市素描」(詩集『海の聖母』)より
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■絵本がプロジェクター映写された一穂の童話「ひばりはそらに」を菅原みえ子さん。その後瀬戸さんが『饗宴』に収められた「室蘭街道1」を読み、シューベルトのCDをBGMに「たましづめのうた」。いよいよ髙橋純先生の御登場です。フランス語訳の「母」を朗読されます。事前打ち合わせ通り、係の方に照明を落として戴き、動画を再生!
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◆「一穂への遙かなる最弱音(ピアニッシモ)」 20181104作曲:柴田望 
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■前半は吉田一穂の写真・画像ドキュメンタリー風に…各詩作品の句読点は「真ん中に」表示。この動画の3:28くらいから、髙橋純先生が翻訳されたフランス語の字幕が大きく映し出されます。フォントも御指定戴き、とても素敵な仕上がり。その字幕と同時に、翻訳者御本人の朗読を拝聴させて戴けました贅沢なひととき。本当は最後の「ピアニッシモ」の単語でエコーがかかればよかったのですが。しかし、髙橋純先生の翻訳された字幕と声が客席に伝わり、反応が、素晴らしかったです!!嬉しく。ありがとうございました。
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■嵩文彦さんの「空中楼閣」、自作詩にも引き込まれ、次は長屋のり子さんの「海の思想」随想からの抜粋。このお二人と渡辺宗子さんの「道産子」ではピアノを弾かせて戴きました。本庄英雄さんの「火の記号」とても知的な朗読。村田譲さんは「VENDANGE」食べ物も飲み物も無くても高らかに笑う、詩の想起の力を思い知らされ、「本日のヘクトパスカル」ダンスも好評! 観衆の心をわしづかみに! 最後に、渡会やよひさんが「少年」を朗読。この「少年」は吉岡実氏や吉増剛造先生も傑作に挙げられている一篇。渡会さんの自作詩、亡くなった「よねじ」のことをうたった作品が、この日の朗読会の中では自分には一番鮮明に浮かび上がり、すっと脳裏に入ってきて、忘れがたい寒さと温かさを残しています。
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■石井眞弓さんの素晴らしい書が紹介され、石井さんも「母」を朗読!最後に、「白鳥」を参加者全員のだけでなく皆さん、会場に来られたお客様全員で朗読。詩人一人ひとりが担当連を読んだ後、会場の皆様と朗読。最後に、全員で第一連を。大演壇の朗読会。素晴らしい経験をさせて戴きました。コーディネーター&司会の長屋のり子さん、本当にお疲れ様でした。貴重な機会を戴きました。皆様、本当にありがとうございました。
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