詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

「閉じこもり、身を落ち着けること」 柴田望

「閉じこもり、身を落ち着けること」 柴田望
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  兵士たちは降りしきる雨と曇りガラスの向こう 振り返らず行軍を続ける 知らぬ間に通過している 踏みしめられた天体の悠大さに呆れる 太陽も死んだのか? 三歩昔の指標を失くして 遠くに家の形がぼんやり浮かぶ うまく体も動かせず いつしか仲間とはぐれ たった一人になってしまった―

  記憶が埃だらけの蓋を隠す 捩れた気持ちが深い場所でまっすぐに背を伸ばす 若い兵士は敵の塹壕へ向かっていった 泥まみれのファシストが撃ちまくる 警告は地軸を狂わせ 灯りの核で手招きしている 真っ逆さまに引き寄せられ 風に塵が鋭角に舞う 絶え間ない悶絶から 目をそらせ!

  伏せろ、撃て! 虚構の叫びと銃声 一斉に散らばり 無地のフィールドに塗りたくられる 内なる廃墟を分別 ホームセンターで簡単に買える権利がことごとく乱射される いじめに遭い 未成年者集団を狙う もう語ることのできない親友、恋人、親子だった透き通るほどの関係も 気まぐれな太陽が織りなす一滴の肖像にすぎない

  ついに消えたのだ 無重力の一室 海底に葬られた意図の彫刻 透明な壁に映す 冷えた所有と虚無の葛藤 意見を述べるために集うことを徐々に失い 順不同に裁断され 自作自演の放火の時間軸に漂う あまねき人間の憂い 意志の残影 ここは魂の段階

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閉じこもり、身を落ち着けること