詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

下川敬明さんの新詩集『雨 その他の詩篇』(待望社)

■下川敬明さんの新詩集『雨 その他の詩篇』(待望社)を拝読、今夏は新海誠監督の映画『天気の子』を観て、都市と変形をえがいた安部公房の影響を感じつつ、雨や災害についても考えさせられ、空は海よりも深いところからもたらされる雨、「ちいさな 光の歪みとなって―」(P42「雨」)、「こぼれ落ちている 無数の/かぞえる かぞえない ほら 無数の」(P30「感傷的な走り書き」)、「その隙間を/水滴がわらいながら落ちていく/舗道に砕け散るため/ちいちゃなひかりを産み落とし」(P26「雨の向こうには」)といった詩句から、ピアノの音を連想致しておりました。昨年5月の札幌市豊平館の朗読会にて下川さんにお会いしたとき(本詩集収録の「永遠」を朗読して戴きました。)、キース・ジャレットビル・エヴァンスのことを語ってくださり、もしかしたら下川敬明さんの作品を読み解くヒントかなと思い、前作『純真な迷宮』を読みながらしばらく聴いておりました。P62「最後の一語」の最終連「その間じゅうずっと、私の筆は走り続けるのだ。嬉々として、生き生きと。尽きることのない、言葉の湧出になかば溺れながら」まさに演奏のようであり、インプロヴィゼイションで奏者の音符が雨粒のように弾いては消え、砕け、泳いでは溺れ、永遠や宇宙へ溶ける、水の結晶が一つの詩句や行、一篇から一冊へと拡がる。なぜ『雨 その他の詩篇』というタイトルなのか、「その他の詩篇」という言葉がタイトルに入っていること自体が凄いと思いました。どの詩篇が雨で、その詩篇が雨でないかは分からない。雨粒の球体にその他の詩篇、あまねく人間の憂いがありありと映し出されているよう。

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