詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■「 壁 ―片山晴夫先生へ 」 柴田望

「 壁 ―片山晴夫先生へ 」
柴田望

~まどろまぬかべにも人をみつるかなまさしからなん春の夜の夢(後撰和歌集巻第九 恋歌一)
*

講演の直前、K先生が私を呼び
「すごい発見をしたよ!」
ぎっしり文字の詰まったノートに
〈古語「壁」=「塗る」・「寝る」=「夢」〉
「壁」は夢の総称
安部公房は伝統を拒絶しながら
和歌の古語を手法に活かした(仮説?)
  
「箱」や「棒」という言葉も
分厚い辞書をめくれば
かつての日本人なら当然に理解していた 
重層的な意味が潜む
小説の主人公に境遇をもたらす
   
壁を壊す 空き家は更地へ
日常の隙間に辺境は潜む 
スマホのカメラで畏怖は撮れない
草の一生 口ずさむ縄跳びの作法
蝶結びのコツ 指先まで届く血は
ご先祖の働きに触れる
かつて咲き誇った庭の残骸
かつては当たり前だった古い造りだ
    
新しい世代の家も
事故やクレーム、壮絶な災害から学んだ
人類の知恵を体現している
危険を安全に変える 両極を前提にしている
《反リアリズム》の手法とは
《本当のリアリズム》の追究である
   
あのときの輝く瞳…
6月のチラシを刷り、街じゅうに配って
最前列で先生の言葉を
耳と手で書きなぐり、講演録をまとめた
「日本語を紐解けば、〈壁〉にはアホ、愚か者、
そのような意味もある…」
覆る壁に従った愚かさを恥じ 名前に逃げられても
狭い視点を打ち破る声が
どんな碑よりも高く導く
*

2019-11‐3.

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