詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■創刊30周年の詩誌「妃Kisaki」第21号(2019年10月10日 妃の会)

■創刊30周年の詩誌「妃Kisaki」第21号(2019年10月10日 妃の会)を初めて読ませて戴きました。法橋太郎さんが書かれたブックレビュー「思考の/言葉の「マージナル」・田中庸介詩集『モン・サン・ミシェルに行きたいな』」から拝読。「マージナル」とは何か。〈周辺にあるさま。境界にあるさま。また、限界であるさま。〉。作品「G/T、前に行く」でこの語に傍線が引かれている。「思考の「マージナル」においてその「マージナル」の所以そのものを詩にすること」、「複数の思考」の考え難さ、不可能性、「原点」のない、「もっとも」深い「ものとして」在る日常生活の「思考」の苦しみ、認識の在り方…こうした表現の異世界を言語によって拓くのが詩によってしかできない役割なのかと、がつんと頭を殴られた思いであります。
 詩作品はすべて上の余白が広く、ページの中央少し上くらいから詩行がはじまる。その余白を海沿いの風景で満たす細田傳造さんの「夢千代 他一篇」は電車の旅の魅力たっぷり。電車とは「のろのろ」したものであり、「ヒ―とかスーとか息漏れの声」をあげたり、「人気のない深夜の待機場で秘そ秘そ泣いた」り、「しずかに濡れて」走りもする人間のような生き物。夢千代日記は北陸エリアではなく山陰エリア? 貝殻節は鳥取県? そうか、岡野屋旅館のある真庭市岡山県の北中部に位置し、鳥取県と境を接する市)は夢千代日記の舞台の一つ?等、夢千代日記にも本州の地理にも疎い私には謎多くも魅力溢れる異郷、イメージの箱に揺られる5次元の旅。
 鈴木ユリイカさんの「信じられない女」「ブラフマー」に瞠目し何度も拝読。「信じられない」という言葉は良い意味でも悪い意味でも、そのどちらでもなく謎めいているという意味にもなる。ものすごく愛おしい、魅力的、という意味かもしれない。どのように「信じられない」のか、「ブラフマー」を読み進める。神話的空間が表れる。「急に私は自分が誕生した場所を知りました」それはとても勇気と覚悟の要る作業ではないでしょうか。「今度はお前の番よ」そして最後の二連、宇宙が形づくられている。創造と同時に喪失が広がる。喪失は愛おしい。「信じられない」ほど甘く広く深く、新しく美しく創造された詩句の一つ一つが「母」に捧げられているように読ませて戴きました。

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