詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

フラジャイル同人の詩人・小篠真琴さんが、《第15回文芸思潮現代詩賞》 見事入選!!

■【重要なお知らせ】(フラジャイル同人はシェアをお願い致します。)

この度、フラジャイル同人の詩人・小篠真琴さんが、
《第15回文芸思潮現代詩賞》 見事入選!!

 小篠さん、おめでとうございます!!!(フラジャイル同人一同より☆^^☆) 小篠真琴さんの独自の世界観を持つ、水晶体の物語の深みへ繋がる作品群が、全国の舞台で認められておりますこと、心より嬉しく、お祝い申し上げます。

 詩人・冬木美智子さんより→「小篠さん、おめでとうございます!みずみずしくまばゆい詩行が行を追うにつれ深まり不思議な翳りと奥行きを感じます。」
 
↓↓第15回現代詩賞結果発表
http://www.asiawave.co.jp/bungeishic…/gendaishi2019kekka.pdf
 
■入選 小篠真琴
 ・「ここにいること」
 ・「雪解けの風」
 ・「道標」

・珠玉の作品「雪解けの風」「道標」をここに。
そして、今年4月発行予定の「フラジャイル」第8号に、入選作「ここにいること」を掲載させて戴きます。お楽しみに!!
 
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「雪解けの風」 小篠真琴 

体育座りを余儀なくされた
しろい雪につつみ込まれて
ふるえる兎は風に吹かれた

まっ赤な目をして丸めた背中の
毛穴ひとつひとつが風を吸い込み
アキレス腱が切られた足で
風に任せて跳び上がる
(やがて、熱は冷めるのです。)

兎は曲がりくねった橋の袂で
あおぞら見上げて息吐き出した
からだ中に流れる風を
吐き出しながら汚れた雪と
じぶんのからだを見比べながら
二月の風は冷たくないと
かんじはじめて、我が身を屈めた

兎のとなりの小鹿はいつも
水浴びせられ玄関開ける
墨を吐き出す砥石が小鹿を
迎え入れては、雲は翳った

兎のからだも墨を浴び
電子辞書だけ頼りに生きた
新聞記事は色褪せて
テレビのモニター睨んでねむる
記憶していた呪文は雲の
すき間からさえ聞こえてこない

兎は再び風に吹かれた
凍えた足で木陰にかくれ
俯瞰したまま街に踏み出す
兎の目から血の気が除けて
もうすぐ兎の耳は羽ばたく
(だれも、救ってくれないのだろう。)

兎はからだに雪をまぶして
もう一度だけ白く染まった
小鹿は既に海を渡った
電子辞書から雑音聞こえた
それでも、玄関先の松の枝には
村の祈りがしみ込んでいる
兎は船のチケット買わずに
体育座りの秋、思い出す

残暑を楽しむ小鹿はいつも
兎の背後で踊っていたのに
いまは孤島で木の実を探す

兎はここで雪解けを待つ
しろく染まったからだのままで
風が吹き止む、あおぞら待って
祈りの意味をかみしめていた

兎の足は罠にかけられ
田んぼの畔で狐につかまる
狐はいつもの花嫁に化け
村の旦那の祭りに向かう

兎は祭りの綱引きだった
綱引いた後、太鼓押さえて
村の旦那にひどくぶたれた
なんども、なんども
泣き止ませまいと
村の旦那は力を込めた

兎のからだは朱く染まった
目の赤さなど失われていた
そして、兎は皮を剥がれる
兎の皮はいろりで炙られ
酒の肴になるはずだった

狐は兎のふくらはぎだけ
喰いちぎっては、旦那に与えた
村人たちは踊り歌った
これがこの村伝統の
宴の猛りと花火をあげた

兎は生身の腕と頭で
神社の鳥居をくぐり祈った
(私は、あなたと雪になる)

兎のからだは白く染まった
雪解け水が血肉を洗った
もう、灰煙は大気にとけて
雲のすき間に、青空見えた

小鹿が呼んだ鴉が街を
飛び回るたび、雪は降り
しろく染まった街の河川は
雪解け水を海へと流す

海の祈りと、河の祈りが
街の彩り作るまで
空は雪をふり積もらせる
兎のからだの白さが街を
近い雪解けことづてにして
*
 

「道標」 小篠真琴

青い鳥と飛行船が
飛んでは、休憩し、飛んでは、休憩しを
雨が降るまでくり返すつもりで
皮膚から汗が流れ落ちるのを
大きな対価だと勘違いしていた

青い鳥は
いつも翼から数枚の羽根が抜け落ちる
また、飛び立つために
翼の根元へと
栄養剤を注入した
青い鳥は、飛行船にはなれないのだ
それなのに青い鳥は
すべての源泉には
飛行を希望する、その(こころ)が
鳥に与えられた壁画を
より美しくする行為だと
信じてやまなかった

飛行船は墜落するのではないかと
毎日、苦悩し続けるばかりで

青い鳥は
自らが青いということを
蛙や鶏から言われても
(水田からは、私の子どもは生まれない。)
と、トラクターを乗り回す
日に焼けた農夫にメールを送る

それだけが、青い鳥が
自分が飛ぶことを選択した
針の糸なのだと
鳥は異国を夢みながら想う記憶の襞だった

鳥は飛行船にはなれなくて
もうすこし
やわらかい言葉を選べないか
庭先を歩き回る

放置された農機具が
雨で濡れるまでは
鳥は
(飛び続けたいのだ)
そう願っていた

鳥はいつかは飛行船のプロペラに
巻き込まれることが(しあわせ)だと
そらを飛びながら
理解し始めた

飛行船のガソリンは
地下水脈の、その下にある
飛行船のガソリンは
地下鉄駅を、3駅すすんだ
その先にある

青い鳥は、粉雪を見上げて
たくさんの反射しる光を受けとめていた
(地球が回っているのは
 太陽がこの地平線から
姿を消すときを愛しているから。)

鳥は背骨に傷を負っていたのに
飛ぶことばかり考えていたのは
雪の白さに憧れながら
白くなれない自分がいるからだと
蛙や鶏を見ながら
知っているのに
なのに鳥は
(わたしは地球を5周したのだ)と
大声で言いつづけることしか
できなかった

飛行船は、いつのまにか
鳥の数キロ先を行く

花火が打ち上げられる
花火は消失する
それでも農夫の妻は
まだ、花火が打ち上げられるようにと
農夫に鍬を与え
農夫の背をしっかり支えた

実った野菜は
飛行船で異国へと送った
叫ぶ青い鳥の姿を見ながら
農夫の妻だけは
その姿が涙と
汗にまみれることを望んでいた

青い鳥は
農夫の妻を好んでいた
飛行船を利用して
自らがつくった野菜を
異国のガソリンを製造する工場長へ
送り届けるための
役割を担う、農夫の妻が
青い鳥の道標だった

鳥は異国をめざした
翼は折れかけていた
羽根は抜け落ちた
やがて、汗をかくだろう
それで良かった
それが鳥と飛行船の共存だと
青い鳥は、空を見ながら
*
 
■小篠真琴さんのfacebookはこちら
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=638640076907665&id=100022850361730

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