詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

花崎皋平さんの新詩集『生と死を見晴るかす橋の上で』

ブックカバーチャレンジ【5冊目】

 花崎皋平さんの新詩集『生と死を見晴るかす橋の上で』を御恵送賜りました。心より感謝申し上げます。花崎草さんによるブックカバーが、非常に美しく、「見晴るかす」様々な時代や景色のヴィジョン、少し離れてじっくりと実物を拝見すると、空と橋とその下に演奏のように編まれる川の流れが浮かんでくるようでもあります。どのような音楽が聴こえてくるかと申しますと、「心のうちに沈み込む/思索し 愛を告げ 祈り/しじまに消える」(「アンドラーシュ・シフのバッハ平均律クラフィーア曲集の第二集を聴く」)、「外は雪 その静寂を 柔らかな音の集まりと感じ/ひらひらと舞う雪も 時を刻む音としてうけ止めながら/ピアノの揺らぐことなく 刻まれる一音一音/一隅を照らす光のよう」(同作)、心にしみる音ばかり。
 「年代記」、歩んでこられた時間の足跡を大切に踏みなおすことで詩が編まれていく。『アイヌモシリの風に吹かれて』以降10年の間に発行された詩集の中でお名前の挙げられてきた方も多く登場され、同じ主題について書かれているようでありながら、常に新鮮なイメージが醸成され、会話が交わされる瞬間の芯へ確かなリズムで導かれていく。大切な人たちとのいのちの時間が詩句に織りこまれている。読み手にとっては意味的に一見わかりやすい詩なのかもしれませんが、現代詩でこのような書き方が成功している例は極めて稀であり、簡単ではない。その時間を実際に経験し、その瞬間にあらゆる感情を抱き、十字架のごとく背負い続け、問い続ける者にしか書けない、読み手に沁みる底知れぬやさしさは、想像を絶するほどの厳しい時間を歩んでこられたことの顕れではないかと、畏怖致しております。
 いつか花崎皋平さんのように書けるようになりたいと望んでおります者に、示してくださった詩行をここに。
 
 メキシコの先住民族ヤキ族のメディシンマン
 カルロス・カスタネダが教えてくれた
 「ここだ」と感じる場所を
 自分のからだで触れながら探せ
 
 (「親密な場所」)

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