詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■詩誌「くれっしぇんど」109(2020.4)

■詩誌「くれっしぇんど」109(2020.4)を御恵送賜りました。
心より感謝申し上げます。
B5判30ページに同人の各皆様の詩とエッセイ、お一人お一人の魅力が満載、充実!

高橋絹代さんの詩作品「あいまい」
「この頃 訳の分からない伝染病が
 世界中に蔓延しているので
 皆 息を潜めて生活しているのだ
 そう
 息も出来ないし苦しい症状になる人もいて
 死に至るかもしれないそうだ」
実際にその現場に立ち会った人よりも、テレビや新聞の情報だけでしか新型コロナを知らない人が大多数。その大多数の生活に大きな変化が生じている。真実とそうでない情報が混在し、曖昧さがリアルを生じる。
「いつもこの時期
 北国では雪解けが始まり
 道路は解けた雪でぐちゃぐちゃして
 歩きにくいのだ」
旭川の象徴的風景。季節が混じる都市と農村の原形質感。
大学入学で初めて旭川駅前買物公園を歩いた3月も、足元がぐちゃぐちゃしていたことを想起しつつ。詩の想像力がVUCA(Volatility変動性、Uncertainty不確実性、Complexity複雑性、Ambiguity曖昧性)な世界情況と北の都の原風景を重ねる。

武士俣勝司さんの「塔」に深い感銘を受けました。「両側の獅子像」…岡出山公園の忠霊塔のことでしょうか。西南戦役・日清戦争の『旌忠碑』、日露戦争の『日露戦役記念之碑』、太平洋戦争の『忠霊塔』がここにはあるはず。
 「太平洋戦争で亡くなった兵士たちを祀る大きな塔
  ガッシリした岩塊の台座に支えられている
  塔の裏の墓碑銘に 三百二十名余りの墓碑銘」
 「一雄 一郎 一弥 新一 惣一 誠一 と
  〈長男が多いのはなぜ〉」
歴史が急に身近に引き寄せられる。海軍准尉で飛行訓練中に敗戦を迎えた柴田の祖父の名も「俊一」でした。
つい七〇数年前のこと、詩が想像力の入口を拓き、時空を超える。今を昔に、公を私に、体制を無数の個人の物語に変える。
 「墓碑銘に刻まれた若者たちの無念と祈り
  今も 塔を囲む樹木に宿る鳥たちのさえずりとなって
  虚空に響きわたつている」

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