詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■藪下明博さんの写真詩集『蝶』(2020年5月20日 私家限定版)

■藪下明博様より写真詩集『蝶』(2020年5月20日 私家限定版)を御恵送賜りました。心より感謝申し上げます。幻想的な異世界へ誘われました。
 12編(葉)のお写真と映像に響き合う詩句、詩のタイトルはすべて蝶の名前。葉書大の一枚一枚が蝶の羽のようであり、生き物のように美しく深い色彩、撮影された年月日や場所までも詳しく書かれていて、イメージが膨らみます。写真集というよりは、景色や空気ごと瞬間をとらえた標本のよう。蝶は変化や喜びの象徴。季節の変わり目へと見る者を誘う。

 「とげとげ道をくぐり
  ぐらぐら橋をわたり
  ごろごろ崩れる 岩山をのぼり
  ぽっかりと 春が聴こえ
  残雪が 煌めいて」(「ⅷ.コツバメ」)

私たちに見える世界と、蝶に見える世界は異なる。デジタル的ではない、フィルムの質感。写真詩集という暗室から気流の回廊の入口へ。被写体である蝶たちの何世代も後の子孫がいまも惑星の気流に乗り、1000キロを超える長距離の旅路、映画『ビフォア・サンライズ』シリーズのような、次の約束をしない偶然の再開を紡ぐのか。

 「断崖 螺旋 昇天するたましい
  錆付いた鎖帷子に
  鎌首を擡げる 異形のものたち

  寝殿 回廊 疲弊する歩哨
  願わくば祈りを
  願わくば眠りを」(「ⅻ.ルリタテハ」)

f:id:loureeds:20200607163014j:plain

f:id:loureeds:20200607170221j:plain