詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■柴田三吉さんの詩集『桃源』(2020年6月1日発行 ジャンクションハーベスト)

■柴田三吉さんの詩集『桃源』(2020年6月1日発行 ジャンクションハーベスト)を何度も繰り返し拝読させて戴き、読後に蘇る「夜が尽きるまで」「緒」「桃語り」「仮定法」「練乳」「くるぶし」「発酵する朝」…「澄んだ秋の下」の子どもたちの問い。車椅子を押しながら発せられるそのお返事。「これが見納めかしら」「まだまだ見られますよ」…丁寧に紡がれる忘れられぬ話し言葉の、鍵括弧がひとつもない見事な会話体の見事な詩行、詩人がわれわれにうちあける「些細な」憶い出が、読者の夢想によって醸成され、その時間の体験の絵の中に、感覚が拓かれていく。「朝顔日記」で花壇の地中に発見される「ああ根の国だ。こんなところにあった根の国は」、続く「コスモス日記」にも「根の国」が。種を播く。「わずか数センチの林が、ほやほや揺れる」「私は世界を創造したのだろうか。種を播いたのはほんとうに私だったろうか。」…「根」は「緒」へ。半紙にくるまれた「わたしたちをつないでいた」証が残され、「鳥籠」が「こぼれ落ちていく記憶」の「根の国」の一段一段深みへ導く。「桃語り」に「娘時代に一度心をかよわせたひと」、「仮定法」では一度も立ち上がらなかった理由、「父」とのお見合いのシーン。存在のルーツに真摯に向き合い、「根の国」へ深く降りていき(誘われ、導かれました。)、今いる場所へ還ること、次代へ繋ぐこと、詩人にとっての重要な役割の一つと学ばせて戴きました。春の花々の彩りがこれほど深く生の根源へ届き、ひとの歴史に重ねられ、えがかれた詩集の例を他に存じません。胸熱く、心より感謝申し上げます。

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