詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

詩誌「時刻表」第七号(「時刻表」舎 2020年5月20日)

■詩誌「時刻表」第七号(「時刻表」舎 2020年5月20日)を拝読させて戴きました。誠にありがとうございます。
 昨年から香港の五大要求民主化デモ、武漢では新型コロナウイルスが騒がれる以前の昨年7月にごみ焼却施設の建設を巡る大規模な抗議デモ。今年はジョージ・フロイド殺害事件に端を発する抗議デモの嵐が全米各地で吹き荒れている。現在の日本にはデモが無い。なぜか。三密を避けるためか? テロ等準備罪に問われるからか? 飼いならされた平和だから? 個人や集団(国など)への「誹謗」とか「ハラスメント」になっちゃうから? 高木敏克氏の詩作品「安田講堂」の「ゆがみガラス」は、日本にもデモがあった証言。東大闘争安田講堂占拠(1969年1月18-19日)とは何か。学生が暴徒化し機動隊に鎮圧された、入試が中止になった…というテロ事件のように歪められてしまってはならない。歴史に記されるべき成果として「一〇項目確認書」(医学部処分撤回、機動隊導入自己批判について、基本的にすべてを認める確認書。学生の自治活動の規制を撤廃し、ストライキには学生処分をもって対処するという矢内原三原則を廃棄、大学の自治=教授会の自治という旧来の考え方を改めて、全構成員による新しい大学自治のあり方、産学共同、軍学共同についても、学問・研究の自由を歪めてはならないという観点から、これを否定することが盛り込まれた。)が締結され、各学部で学生が主体的に無期限ストを解除、大学の再建へと向かった(研究・教育活動の再開と改革をめざした)ということが、昨年発行された『東大闘争から五〇年――歴史の証言』(花伝社)(東大闘争・確認書五〇年編集委員会)に書かれていた。「ゆがみガラスをのぞいてみると五十年の孤独は/消えかけた現実に入れ替わるのです」。ガラスの向こうから、当時の空気を知る感性から、過去を、現在も、一方の都合ではなく多様な角度から複眼で見つめなければならない。
 広瀬弓氏による「マングローブヒルギの水」、自然公園…トクジム自然公園のことでしょうか。亜熱帯の木々の絶景。「時間をかけて淡水と海水は重なり/土砂と落ち葉は混じりあう」水の行方を辿りながら、その三年前に熊野詣「玉置神社で杉の巨木を見上げたことを思い出す」「大杉よ 大杉よ 天と地のエレベーター/降りてくるもの 昇るもの」。遠い地を時空を超えて繋ぐ水と光。幾重もの潮の満ち引きと流れ。生命に溢れる迷路に誘われる。
 田中健太郎氏の「平川祐弘の『ダンテ「神曲」講義』を読んで」を興味深く拝読。『神曲』もボッカッチョの『デカメロン』もトスカーナ地方の方言によって書かれた。『デカメロン』はステイホーム(ペスト感染からの)隔離疎開中の退屈しのぎ話であった(!)。平川氏による「西洋の『新曲』とか日本の『源氏物語』とかーそうした東西の古典の細部をわきまえていて、かつ複数の外国語を心得ていると、いろいろな物を三点測量する際にたいへん役に立ちます。比較文化史的な視野がおのずと開けます。流行に脚を掬われることがなくてすみます」との深い伝授。「天国篇」よりも「煉獄篇」よりも西洋キリスト教文明の核心のようなものが見えてくる「地獄篇」。その魅力に浸りたいと思います。貴重な勉強の機会を賜り、心より感謝申し上げます。

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