詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■海東セラさんの新詩集『ドールハウス』(思潮社)

■海東セラさんの新詩集『ドールハウス』(思潮社)を拝読させて戴きました。とても美しい御詩集…人と人形、有機物と無機物、光と闇、形あるものと無いもの、生と死、言葉を発するものと言葉にできないものによって建築は幾何学と生物学の両方の規則を織り上げる。生活はあまり感じられない。整理整頓されていて掃除も行き届いているのに、どこまでも奥深くて複雑な機構。秩序の段階が形成される。深い層へ進みたくて鍵を探る。その意味では夢なのかもしれない。幼い頃から繰り返し見る夢に出てくる家だろうか。あるいは花、鳥、風…各タイトルが夢への扉で、水差しの花のような鍵穴のような「*」(アスタリスク)が手掛かりの註釈へ導く(タイトルだけではなく「ミルク」「庭」「動線」「換気」「オープンハウス」のように本文中の詩句に置かれる場合もある)。専門的な語彙による丁寧な説明が詩篇のイメージと溶け合い空間に響く。
 詩が編みだす物質が辿る長い旅や、止まっている時間の断面の向こうから拓かれる音楽の宇宙的印象を感覚したい。「余白だった場所が部屋のすべてにおよぶ、これら渾沌は住まうひとらの表象とおぼえるべきで、余剰の生かし方は殺し方である」すると殺し方は生かし方…創作の極意のような「デッドスペース」にも注目。「庭」について、「換気」に登場する青い鳥について、いずれ感想を書かせて戴きたく存じております。心より感謝申し上げます。

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