詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■森れいさんの新詩集『かえしうた』(緑鯨社)

■「億年の軌跡をくぐりぬけ
  この手のなかにたどり着いた鉱石
  稀有な化学式に彩られ 憑き あやかし
  光の音がたちあがる」
 (「夜の沈黙(しじま)に打ち寄せられる鉱石の鼓動」)
 石は幾光年もの彼方から、長い時間、遠い距離を超えてやってくる…。
 森れいさんの新詩集『かえしうた』(緑鯨社)、鉱物に題名が刻まれた、触れるだけでどきどきするような、美しい表紙をめくると、銀河の彗星。やはり石は流れ星の欠片だったのだ!と感嘆と感動。
 「空気にさらされたいたみが
  夜の沈黙(しじま)に光を放射しながら
  のりうつる光をさがしている
  その来歴と諦観をおしいただいて
  銀の揺籠をかたちづくる」
 (「夜の沈黙(しじま)に打ち寄せられる鉱石の鼓動」)
 幻想的な中国の旅、職人の手によって磨き上げられる星としての鉱物の輝き、神話的空間、時代の激流の痛みを刻み、画家の精神世界を見事に語る絵画との深い共鳴(「深井克美によせる恋歌」『黄昏』『まなざし』)、父と娘の運命「夕景の 水晶結光」(「抱擁」)の輪、石は星、何万光年も記憶していく。最後の目次も作品のよう。「かえしうた」とは、贈られた歌に答えて詠む歌。返歌。宇宙は響き合う空間。
 「託されたことは
  打ち寄せる波動をこの身でうけとめ
  母岩にいだかれていた安息に かえしてやることだ」
 (「夜の沈黙(しじま)に打ち寄せられる鉱石の鼓動」)
 《旅の途中》《錺り屋》《愛しきもの》の三部構成。小樽詩話会や「ZERO」で読ませて戴いておりました作品群の結晶。石の魔性の引力、何本もの映画鑑賞のような読後感。たくさんのビジョン、存在の核の不思議さへ伝わる、胸震える波動の見えるような経験が星の欠片に詰まっています。ありがとうございます。返歌を、必ずお贈りします。

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