詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■葵生川玲さんの新詩集『マザー・コード』(視点社)

■葵生川玲さんの新詩集『マザー・コード』(視点社)を拝読させて戴きました。誠に、ありがとうございます。第10冊目の単行詩集。御出版、おめでとうございます!
 毎年100冊以上、全国の詩集を読ませて戴いておりますが、チェルノヴイリ4号機を覆う白いシェルターのこと(「チェルノヴイリドーム」)や、福島で撤去されたヤノベケンジ作「サン・チャイルド」の問題(「見えなくなる」)が書かれている作品を読んだのはこの詩集だけです。「詩を生きることに繫がる結果として、自然に、作品は生みだされてきたもの」(「あとがき」)。生活者の視点から、主題を言葉へ、時事的な問題がそのまま切り取られるのではなく、詩人によって日常の生活の手際で自然に料理され、読者はそれを味わい、世界を感じる。夏カレーの作り方「レシピ」という作品を、創作術のように読ませて戴きました。社会問題に対して自然な感想が述べられるからこそ、読者は共感できる。
 「科学の名で/壮大な宇宙まで汚し/地球まるごと大地の上と建設と破壊と/人類の生と死に及ぶいのちを滅ぼす途上を歩いている」(「いのちの旅」)、建設と破壊、大きな物語の都合で、あったはずの町、暮らしの痕跡が消されていく(「消えない町」)、だが残されているものもある。「時の権力に恐れられたか懐柔されたかで残されたものだが。」(「しるし」)。太古の昔から、小さな物語は大きな物語の都合に操られているのか。懐柔される。あたらしい生活を押し付けられる。「ソーシャルディスタンス」「手洗い」「うがい」新しい言葉が紛れ込み(「新しい生活」)、スマホGPSはONに(「現在地」)、この操作にもきっとログインとパスワードが必要(「パスワード」)。現代の詩人が現代の波動を受け止めた証、流されるだけでなく、立ち止まることを教えてくれる。人類の現代を書くことで過去と未来に届く詩群がここに。

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