詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■為平澪さんの詩集『生きた亡者』(モノクローム・プロジェクト ブックレット詩集23)

■為平澪さんの詩集『生きた亡者』(モノクローム・プロジェクト ブックレット詩集23)を拝受致しました。御恵送賜り、誠にありがとうございます。
 「亡者」とは何か、死んでなお成仏できずに冥途 (めいど) をさまよっている魂。亡者は生きている。都市の隙間で、時代の流れに取り残され、今とはどんどん遠ざかっていく、でも確かに存在していた、社会的な光の当たらないところの、救いのない状況での弱き側の声や痛みが、とても生々しく聴こえてくる瞬間が何度も訪れました。「家の唾」という作品が衝撃的でした。高齢化の進む日本には空き家が多い。2033年には全住宅の3戸に1戸が空き家になる。解体すると廃棄物に分別され、在ったことすら忘れられていく。その家に、私たちは住んでいた。家族がいた。語らいの時間があった。机で、茶碗で、御飯を食べた「カタチあるモノはいつか壊れるというけれど/いのちある人のほうが簡単にひび割れる」(「台所」)、悲しい別れがあった。存在している私たちは、いつかやがてこの世から消えていく。噂のように。
 「その井戸」と「噂」という作品が、人の価値観の操作をたくらむ噂の本質を浮き上がらせているように感じました。「私の中に井戸ができた。悲しいことがあるとそこに〈 〉を投げ込んだ。」という「〈 〉」について書かれた「その井戸」では、亡者である「私」が生者のように秘密を語る。水を懇願していた村人たちが豹変し、井戸を閉鎖して排除する。かれらに「〈 〉」は理解できない…。このような解説なんて全く届かないような凄い詩世界で、一篇の映画のように読ませて戴きました。言語が夢を視せる力。為平澪さんの世界だと思いました。

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