詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■詩誌「時刻表」第8号(2020年11月20日 「時刻表」舎 編集発行:たかとう匡子氏)

■山本眞弓さんより詩誌「時刻表」第8号(2020年11月20日 「時刻表」舎 編集発行:たかとう匡子氏)を昨年末にお送り戴いておりました。心より感謝申し上げます。
 山本眞弓さんの詩篇「水風船」、「禍」のつく不安な時代におけるシュールレアリズムの夢、衝撃的な第一連「ヨーヨー釣りの水風船か/針で一突きすれば/どっと水が流れ出し/どろどろの血の塊やら臓物も/よれよれの薄皮に/砕けたさんごの欠片」。夢は次の場面、第二連「なだらかな平野」「見知らぬ国の田園」や丘を越え、細い透明な体のアマビエに遭遇。第三連で目が覚めると水鉢の目高が死んでいる。「たぽんたぽん」と浮き沈む「水風船」は目高の、アマビエの眼だろうか。「舞い上がれない 沈まない」の一行が不安を揺さぶる。
 倉橋健一氏「気むずかしい夢」も時代の不安が夢に反映されているよう。「だが波紋字体は所詮は物象に過ぎないのだから」(「気むずかしい夢」)、世界を覆う「禍」のカーテンは根源の核を写しているに過ぎない。夢に導かれ辿り着く、人の「本性」に関わる秘密。「戦争という名辞を虐殺、陵辱、略奪の三要素に分解してしまった/とある詩人の奇抜な発想に心底翻弄されてしまった(ことがあった)/詩人はそう分解することで/人類は生成の最初の段階から本性に戦争を持っていた/と警告する/なるほどそうだとヒロシマナガサキアウシュヴィッツも/単純に時代の生み出した惨劇とはいいにくくなる」。『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ著)を読むと、他の種族を滅亡させた、夢を見る=フィクションを信じる才能を持つ私たちホモ・サピエンスが「生物の歴史上、最も危険な種」であることが分かる。戦争は形を変えて続いている。田中健太郎さんによる批評「縄文を生きた人々との対話」、「縄文時代から現代までの年月を十度繰り返す。」壮大な高橋次夫詩集『祷りへの旅』論を拝読しながら、詩の言葉によって再構築される、人類の歩んできた危機の歴史について、深く考えさせられました。

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