詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■嵩文彦さんの個人誌「麓」17号 田中健太郎さんの「山川精さんのふたつの「天皇の通夜」」

■嵩文彦さんの個人誌「麓」17号を拝読させて戴きました。誠にありがとうございます。
 今日は終戦の日、1ページに掲載されている田中健太郎さんの「山川精さんのふたつの「天皇の通夜」」を非常に興味深く拝読。同人誌「現地」(発行所:堀越義三宅)に1987年に掲載されたというこの作品には、「一九四五年九月下旬」にソ連の日本人収容所で「天皇陛下を殺害し、皇太子殿下の歯を抜いてアメリカへ連れ去った」という噂が流れたため、抑留生活を強いられていた民間人たちが「天皇の通夜」を行った、という驚くべき様子が描かれている。このことは何かに記録されているのでしょうか。1995年に発行された詩集『届かぬ声』には、同じ場面を描いた同タイトルの詩篇が、元の42行から27行に磨かれ、収められている(山川精さんの「削る」闘いの痕跡が見える)。
 「ソ連へ連行された日本軍の兵舎跡にうごめく人々によって、一九四五年九月中旬某日、天皇陛下の通夜の儀式が行われた。二万数千人が頭を垂れ悲運に涙する光景は、たしかに日本人のまとまりを見せていた。/
 少年たちも部屋の片隅で、泣きながら高粱を炊いてこれに加っていた。しかし、表皮を剥いだだけの高粱は、小豆を入れていくら煮続けても芯と渋味が抜けてくれない。通夜はまことに短く終わった。だが涙の止まらない少年たちは、まだ軍国主義の奉持者であった。」(「天皇の通夜」)

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