詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■ 「 星 (さあ、水晶狂いしよう 1) 柴田望

「 星 (さあ、水晶狂いしよう 1) 」

巡礼のうたごゑ祇園の夜のともしび時計の玻璃石蕗つはの花咲き
寺の庭あらたなる草木人間の道深く信じ消えにけり融けゆけり
枯れはてて哀しき木の芽に息をふきかけうつくしき川は流れ
美しき微風蒼き東京浅草夜のあかり死にしもの啼きいづる
菜種のはなは波をつくりたちまちに鳴り氷の扉ひらかれ
人人の心伸びゆけり一心に土を掘る風に砥がれて光る
かもめなぎさ波、波、哀しき波ぎんいろの蛇になる
砂山に埋め去る燐光とその哀歓指は魚針のにぶり
金のラインを空とほく引ずりて草は秋のひかり
水のほとりにたましひふかく燃えたち震はせ
血みどろに生けることつかの間に消え去り
銀の片脛十字をきる月草の藍をうち分け
飛べるもの石となり玻璃のごとく死す
霜に祈らん風もなき白昼あらし来る
きららめきつつ飛び山山雪を染め
秋松林のなかに座すうづくまり
海の青い瞳は来る渚波のむれ
静かなる空土はおとなく秋
梢はかわき水すまし離れ
ふるさとの公園芝草に
秋をまつ大根畑に雨
微かなる音をたて
寂しき哀章抱き
交し叫び凍み
朱き葉落す
立ち戻り
わが肌
明眸

踊りつつ涙ぐむ炎再生を思慕する踊れ詩篇に火を放ち死にゆかむ
夕陽のリズム麺麭をもとめんガラスのごとく透きとほりひびき
屋根裏より手をさしのべて円形のリズム樹は炎悪酒に浸れる
脳はくさりうつとりとうつくしく賑ひを怨ずるただひとり
寂しい心旅人のやうに憩ひ暮れ方近く煙のぼる室生犀星
感じるなんといふ微妙な霧葉の上に梢に真にかがやけ
汽車はつく雪熱い息をつく雪国の心季節のかはり目
寂しき梢を求むれば天上寂しき上野ステエシヨン
味覚を失ひ祈り求め遠方へ去る日ぐらしのこゑ
銀製の坂を下りいちめんに苔が生え手に躍る
ひややかに輝け燃えつつそそぐ九月夜の霧
空と屋根茫として綴る夜霧の並木ぬれて
街をさまよひなつはみどり熱き夏の砂
並木にすがり海をわたり青き世界よ
渾身の力輝ける街路眼もくらやみ
都に眠る眺め深く流れみなぎる
草の消えゆく大乗寺山寂しき
煙のなかはりがねのごとき
眼はひとり冬木の幹は青
煙れる冬木朱き日入る
ふたつに割れし石音
啼く水を噴く凍り
夜夜冷えまさり
無口のつぐみ
血もて血を
光のなか
暖かき
蒼空

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