詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■詩誌「Unedited」vol.7

■詩誌「Unedited」vol.7を拝受致しました。心より感謝申し上げます。収録の詩篇も素晴らしいですが、散文が上質だと思いました。貴重な勉強をさせて戴きました。
 水島英己氏「私たちの闇を共有する壁」を嬉しく拝読、「チャールズ・ブコウスキーの詩を今も読む人がいるのだろうか。」…はい、今も読んでいます✨そして細田傳造さんの詩に、ブコウスキーに通じる迫力やユーモアを感じています。
 ブコウスキーにとって文学は「血や汗の臭いがする」もの。ヘミングウェイ直伝の短編力が詩にも生かされ、酔っぱらって裸で歩き回れる範囲の声で描いていると見せかけ、あくまで虚構の登場人物(ヘンリー・チナスキー)を戦略的にキャラクター化し、アメリカンドリームの嘘、階級社会を暴きました。詩作においてはエズラ・パウンド経由で李白杜甫といった漢詩に触れ、たった一行で千行分を顕すような詩を志し、ケルアックやギンズバーグの書き方に対しては批判的であり、距離を置いていたはず。ボブ・ディランビートルズ世代に多大な影響を与えたビート詩人たちよりも新しいトム・ウェイツアラニス・モリセット、90年代のU2等がブコウスキーの影響を公言していたので、私にとっては「ビートニクの一人」というよりは、もっと新しい存在です。90年代に北野武氏が帯を書いた新潮の単行本がよく売れていました。
 ビートニクはジャズの影響が強いのですが、水島英己氏に引用されている詩「兵士、彼の妻そして浮浪者」にあるように、ブコウスキーはクラシック以外を許しません。マーラーも好きだったはず。機関銃のようにタイプラターを叩くのはケルアックも同じかもしれません。そして打ちのめされた世代を生き、打ちのめされていたという意味ではブコウスキーもビートなのかもしれません。アメリカを代表する作家を称える3Bという言葉がありましたね。『裸のランチ』のウィリアム・バロウズ、『シェルタリング・スカイ』のポール・ボウルズ、出版社がこの二人に比肩する存在としてブコウスキーを称えたのです。
 大学時代にブコウスキーの影響で、セリーヌやシャーウッド・アンダーソン、カーソン・マッカラーズを知り、フォークナーを読みました。当時思潮社から発売された『方言詩集』がまだ手元にあります。工藤正廣先生の津軽の詩が前衛詩のようでした。日本語の詩を巡るあらゆる議論の位相の「断層のような場所」を見事に照射する郡宏暢氏の「詩と「方言」について―ポエトリー・リーディング雑感」の鋭い指摘を読み、「喪失」を語る言葉としての「方言」詩の意義を確かめています。口語自由詩の確立者である萩原朔太郎の『青猫』からちょうど100年。KOTOBA Slam Japanなど現代のポエトリー・リーディング前線に輝く豊かな言語の多様さ、「生きた言葉」の多彩さ、眼差しの敏感さ、「作品」と「語り」の境界を軽々と超える見事な柔軟さ。

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