詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

『 NO JAIL CAN CONFINE YOUR POEM 詩の檻はない ~アフガニスタンにおける検閲と芸術の弾圧に対する詩的抗議 』

『 NO JAIL CAN CONFINE YOUR POEM 詩の檻はない ~アフガニスタンにおける検閲と芸術の弾圧に対する詩的抗議 』
(発行所:バームダード/デザインエッグ㈱)
Amazon.co.jpよりご予約戴けます。
https://x.gd/sGHrX

■驚くべき熱意を示し私たちの抗議活動に多大な貢献をしてくださった日本の詩人たちに恩義を感じ、深い感謝を表明しなければなりません。(ソマイア・ラミシュ)

詩:
ソマイア・ラミシュ
青木由弥子
青木陽二
あさとよしや 
植松晃一
S・K
遠藤ヒツジ
大田美和 
岡和田晃
尾内以太
クノタカヒロ
佐川亜紀
恣意セシル 
柴田望 
高柴三聞
髙野吾朗 
高細玄一
谷脇クリタ 
津川エリコ 
TOXIC 
なゆた
二条千河 
にゃんしー
野口壽一
南風ニーナ 
葉山美玖 
Haruka Tunnel
ふくだぺろ
福田葉
文月悠光 
三木悠莉 
村田譲  
元ヤマサキ深ふゆ 
森耕 
雪柳あうこ 
ゆずりはすみれ
吉田圭佑 
アビ・スベディ 
アルシャード・カーラ  
アンネ・ヴェクテル 
セシル・ウムアニ 
クリストファー・メリル 
デビッド・ボコロ 
ダヴィデ・ミノッティ
ファテメ・エクテサリ
ハフィド・ジャファイティ
フアン・タウスク 
ケイズ・サイード
リディヤ・ディムコフスカ
メッテ・モーストロップ 
モニーク・エマ・ジョアンネ
ニーラ・ナス・ダス
カマニ・ジャヤセケラ 
シェリー・ボイル 
スーザン・アレクサンダー
タリク・ギュネルセル 
ティボー・ジャコ=パラット

表紙写真:谷口雅彦  
翻訳:安藤厚
イラスト:日野あかね

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『 NO JAIL CAN CONFINE YOUR POEM 詩の檻はない ~アフガニスタンにおける検閲と芸術の弾圧に対する詩的抗議 』
(発行所:バームダード/デザインエッグ㈱)
販売価格1,870円(税込) ISBN 978-4-8150-3933-2  
発行2023年8月15日
(販売による印税はすべてバームダードへ寄付されます。)
編集 柴田望/発行所 Baamdaadバームダード(亡命詩人の家)  https://www.baamdaad.net/ 
◆バームダード 日本の連絡先
〒070-0876 北海道旭川市春光6条2丁目5番8号 柴田望
電話:090-3396-6685 電子メール:tao81nozomushibata@gmail.com

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 この本に収録されているSomaia Ramishさん作の詩に「リバティ・ロック・ラジオ」について書かれていました。私は二人のミュージシャンを想起します。昨年、NHK(日本の公共テレビ放送局)で、デヴィッド・ボウイルー・リードが登場するドキュメンタリー番組が制作されました。デヴィッド・ボウイの一九八七年のコンサートでの行動が、ベルリンの壁崩壊に大きな影響を与えたこと、ルー・リードの初期の音楽がチェコスロバキアの革命に影響を与えたことなどが紹介されていました。彼らの功績が語られるのは嬉しいですが、東西冷戦時代の西側のヒーローとして扱われ、テレビで放送されることには違和感があります。デヴィッド・ボウイは既成概念に対し常に挑戦する革新的な表現者です。あらゆる権力が芸術を使って民衆を操ろうとしていることを見抜き、巧妙に告発しました。一九八〇年の「Fashion」などの楽曲を聴いてもそのことは明らかです。一九八五年に世界の約十九億人がテレビ視聴した大イベント、ライブエイドに出演したとき、ボウイは一九七四年に着ていた衣装を選び、テレビ社会を風刺する「TVC15」を歌いながら登場しました。一九七四年の「ダイアモンド・ドッグス・ツアー」はジョージ・オーウェルの小説『1984』の世界観を再現したショーです。次の曲はLGBTの問題を扱った「Rebel Rebel」という叛逆の歌でした。ボウイの表現の真意は注目されるべきです。既成概念の遠く及ばない詩の領域を開拓した真の詩人であるルー・リードも五〇年以上も前からLGBTの問題を扱っていました。日本では二〇二三年の今年ようやくLGBT法案が国会で議論されています。資本主義社会のシステムに馴染めず、疎外される存在がどう生きるかをテーマにした、ジョナサン・ラーソンのミュージカル『レント』も、一九九六年の作品ですが、感染症LGBTの問題を扱っています。今こそこうした芸術作品が社会に何を訴え、私たちに何を教えてくれるか、真剣に議論されるべきです。
「アニメ」や「映画」、「ゲーム」、「ポピュラー・ミュージック」といった現在隆盛な表現のジャンルの中に詩の力は感じられますが、純粋な文学のジャンルである「現代詩」は、残念ながらそれらに比べ衰退しているように見えます。資本主義社会では、大きなお金を動かす芸術の力は大きいですが、そうではない詩の存在感は薄いです。反論はあるかもしれませんが、全体的に見て、残念ながら今の日本の現代詩は、檻に入れられてしまっているようにおとなしいジャンルです。最後に日本の詩が隆盛だった時代は一九五〇年代、六〇年代でしょうか。今よりも多くの人々が日本の詩に関心を持っていました。時代の転換点に、人々は真剣に社会のことについて考え、議論し、行動し、それまでは見たことのないような前衛的な詩を書き、詩を読みました。
 時代の転換点を哲学的に表現した日本の作家安部公房の作品は世界の人々に読まれています。安部公房は人々の価値観が崩れて、新しい価値観が日常になっていく様子を小説に書きました。私たちが普段何を普通(fu-ts-u)と考えて暮らしているか、それは本当に普通なのか、という根源的な問いを与えてくれます。
 九〇年前の日本は自由に詩を書くことができない国でした。文学者たちが国家権力によって弾圧され、拷問を受け、殺されました。第二次世界大戦中は国を讃え、軍隊を応援するような詩が歓迎され、その逆を書くことは犯罪でした。戦争に負けると勝った側の文化に染まっていくのが常で、日本が敗戦した後は西側の芸術に触れる機会が急速に増えました。日本憲法基本的人権の尊重が書かれ、表現の自由が守られ、「すべての見解を検閲されたり規制されたりすることなく表明する権利」が今も保障されています。日本では詩を書くという芸術活動を罰する法律がありません。書きたい詩を書き、今回の本を出版する私を罰する法的な根拠が、日本にはありません。これは普通のことなのです。その状態を当たり前(ata-ri-mae)として、七〇年以上、日本人は生きてきました。
 国がどうあるべきかという考え方は国によって異なります。詩とは何かという問いへの答えも、国によって違います。詩とは何か、真剣に考え、全力でその問いに立ち向かい、行動し、詩を書く権利は、だれにでもあるはずです。既成概念や過去の規範を壊していくことが芸術表現を進化させていくことを私たちは歴史の中で何度も学んでいます。檻をつくり、進化を放棄してはならないのです。
 Somaia Ramishさんの呼びかけがそのことを思い出させてくださいました。今の時代に、一人の詩人から、世界の詩人たちに対する呼びかけが行われたことに、深い感動を覚えました。詩のあり方だけでなく、人間の存在の根本に深く響くような問いかけでした。私はアフガニスタンに一度も行ったことがなく、私が想像するアフガニスタンと本当のアフガニスタンは違います。アフガニスタンの方たちも、日本の状況を理解することは難しいと思います。当たり前が違うからです。そのような価値観の違いを超越して、メッセージは届きました。アフガニスタンの状況を伝えるSomaia Ramishさんの姿勢に心を動かされ、メッセージに賛同し、呼びかけに応じ、世界の多くの詩人が自作詩を送りました。これは驚くべきことであり、一人の詩人が表現を行う意思を世界へ表明したことへの喜びと賛同の表れであるとも考えます。よって、今回短期間であるにも関わらず多くの詩人の作品が寄せられたことは、タリバン政権の政策的決定に対する抵抗運動への連帯と言うよりは、ある一つの社会常識の中で生かされてきた私たちの当たり前の感性の心からの判断であり、行動した結果として起きた出来事のように思えます。この当たり前の良い面があるならば、それは世界の多くの人たちにとっての当たり前であり、普通であることを祈ります。
「詩を書き続けたい」という詩人の聲に心を動かされ、応援したいという意思を持つことは、政治以前であり、根源的な存在の問題に関わる人類の想いの顕れであり、その領域に触れることが詩の営みであると考え、Somaia RamishさんのメッセージをSNS等で拡散させて戴きました。ご賛同戴き、バームダードへ詩をお送り戴いた詩人の皆様へ心より感謝申し上げます。
 英語から日本語への翻訳をご担当戴いた北海道大学名誉教授の安藤厚先生、フランス語版の翻訳をご担当戴いた小樽商科大学名誉教授の髙橋純先生、校正・校閲のご助力を戴いた青木由弥子さん、岡和田晃さん、二条千河さん、木暮純さん、この本がアフガニスタンと日本にとっても歴史的な日付である八月十五日に刊行されるためのご支援ご協力を戴きましたウエッブ・アフガンの野口壽一編集長をはじめ、長屋のり子さん、KOTOBA Slam Japan 三木悠莉さん、遠藤ヒツジさん、多大なるご助力を賜りましたすべての皆様へ心からの感謝を申し上げます。表紙の緊張感溢れる海辺の写真をご提供戴きました谷口雅彦さん、ありがとうございます。日本は海に囲まれています。日本にとって海は国境。海を越えて詩人のメッセージは届きました。波の輪のように広がっていきますように。(柴田望)

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