詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■11月6日の北海道新聞に「迷い道に入った時、新たな表現と出合う~現代詩人・吉増さん 創作語る」、2023年11月5日に井上靖記念館で開催されたトークイベント「吉増剛造×平原一良~石狩シーツから普遍言語へ~」について記事が掲載されています。

11月6日の北海道新聞に「迷い道に入った時、新たな表現と出合う~現代詩人・吉増さん 創作語る」、2023年11月5日に井上靖記念館で開催されたトークイベント「吉増剛造×平原一良~石狩シーツから普遍言語へ~」について記事が掲載されています。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/936631/
井上靖記念館企画展「普遍言語へ ー詩人・吉増剛造の世界展」関連事業、貴重なご対談を、私は最前列にて拝聴させて戴きました。質疑応答では僭越ながら10月28日モエレ沼公園ガラスのピラミッドの中心で行われた「石狩シーツ」の朗読(「糸を紡ぐ、詩を編む 吉増剛造「石狩シーツ」再創造」)のこと、札幌大学の学生さんの若い感性で創造される映像と音に囲まれた(ご本人はご存じなく、目隠しをされたような状態)吉増先生がマイクを巻紙の端で打楽器のように叩いたり、ハンマーを床に鳴らしたり、ドイツのバンドで初期のEinstürzende  Neubautenのパーカションよりも前衛な吉増先生の音と仕草と詩と、新鮮な音(空間現代の影響下にある)と映像(石狩川)との即興の稀有なセッション、別世界に誘導されたこと、荒木奈美先生がコロナ禍で不確実な閉塞の時代に、寂しそうな学生たちの魂に何かを感じられることをしてあげたかった、吉成秀夫さんの講義で吉増剛造先生を知り、一目惚れし、イベントを実現できた…という喜びを泣きながら語っておられましたこと、ご報告させて戴きました。その後代表の学生さんが最後の挨拶で言葉を一生懸命紡ぎ出すように語られた「皺」というキーワード…その「皺」とはどのようなものでしょうか?と質問させて戴きました。
 石狩シーツの皺、荒木経惟の皺、撚糸島(渋沢孝輔)、中原中也の「想ふことを想ふことは出来ないが想つたので出来た皺に就いては想ふことが出来る。 私は 詩 ( うた ) はこの皺に因るものと思つてゐる」。ポール・ヴァレリーの「詩というのは、言葉と音の間のような微妙な所にあるもの」…
 吉増先生は、10月28日の「石狩シーツ」の朗読では目隠しをされた状態のように、映像のセットに囲まれていたことは気づかなかった(吉成秀夫さんから送られた写真ではじめて知った)こと、「石狩シーツ」の「一角獣」とは、ペン、鉛筆のことであった(「 白いインクの一角獣、 「濡れた山のヴィジョン」を、 “不図(フト)”――想ひ浮かべて、 鼻(ハナ)を上げた」)、そのことにいま気づかれた驚きをお話くださいました。
トークメモ:迷い道に入った時…「森の中の誰も歩いたことのない道」(ハイデガー)、本や詩をはみ出して各地で展覧会を開催され、「表現が活動になってきて歩き方になっている(驚きながら…)」、詩を書く現場から少し外れたところに見知らぬ道。詩作とは死ぬほどつらい思いをしないと、命がけで書いたって詩の言葉は出てこない…。石巻の大川小学校、赤いランドセルを遺した鈴木巴那ちゃんの詩を書こうとしても1年間どうしても書けなかったこと、雛の家にふっと歩み寄ったような気がして…雛の家、芭蕉の【草の戸も住み替はる代ぞ雛の家】、石巻の「詩人の家」が鈴木巴那ちゃんの家に近かったこと、「撥」(ハッネ)の発声…100年経っても1万年経っても書けないようなものが出てくるのが詩。左川ちかは天才だから「海が天に上がる」などと書ける。私たち個人個人にも、物凄い宇宙の圧力がかかっている。ほんの僅かな割れ目(光)、この場所のご縁、時間間隔が変わってくる。見えない神様。巴那ちゃんが雛の家の戸口に立つ。10月7日に井上靖記念館で経験した、魂の色みたいなものが変わった、モエレ沼公園のピラミッド内での「石狩シーツ」、奇跡的な光。吉本隆明吉増剛造評「ある詩の部分を見つめるだけではなくて生活の全領域をカバーしようとしている」…全幻想領域を捉えるような心を持つこと、セカンドベースを抜けていく、半端を半端に、宇宙的なものに、幻想性の全体を捉えるようにする。昨年の北海道文学館での「吉本隆明展」の素晴らしい図録(吉成香織さんがお作りになられた)、隅田川沿いの佃、「日時計篇」を毎日540篇書いた、鉛筆で、罫、切り傷、傷跡、とも言えないような刻み目をつけていく、手の持っている本性、無い詩を保存するために、線になる。誰も創造したことのないような、楽器を創造する。楽器を創ることが大事。誰も触ったことのないような楽器を創る。へぼ道、けもの道、わき道、展覧会の中で、時間を創る。この時間という不思議なものの中で、何かが芽生えていく。もう一人の片割れの、常に幻想とも言えない幻の楽器を創ろうとしている…見知らぬ神が通り過ぎる(ハイデガー)、吉本隆明の手の動き、しきりに触るような信じられる感覚。原民喜は「クラヤミノナカヲ/モガキ モガキ/ミンナ モガキナガラ/サケンデ ソトヘイデユク/シュポッ ト 音ガシテ/ザザザザ ト ヒツクリカヘリ」…「シュポッ」「ザザザザ」と聴いた。渋沢孝輔の縄文の「撚糸島」(詩集『われアルカディアにもあり』)、アントニ・ガウディの瘤(建業の秘密)…