詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

「メディアあさひかわ」2023年12月号に~今あらためて注目・時代を先取りした安部文学~鎌田東二先生をお招きした東鷹栖安部公房有志の会主催「安部公房没後30周年記念」特別講演について、見開きの詳しいレポートが掲載されていました。~安部公房の足跡残す”東鷹栖”で「没後30年記念講演」~

■本日1月22日は生誕100周年の安部公房の忌日。文芸評論家の高野斗志美先生が「自分が中国に行く直前に井上光晴が死に、日本に帰った途端に安部公房が死んだ、衝撃を受けた…」と仰っていたことを想起致します。
📖「メディアあさひかわ」2023年12月号に~今あらためて注目・時代を先取りした安部文学~鎌田東二先生をお招きした東鷹栖安部公房有志の会主催「安部公房没後30周年記念」特別講演について、見開きの詳しいレポートが掲載されていました。~安部公房の足跡残す”東鷹栖”で「没後30年記念講演」~ 心より感謝申し上げます。
 ↑【動画】特別講演 鎌田東二先生 安部公房ー仮(化)の文学 東鷹栖安部公房有志の会主催「安部公房没後30周年記念」2023年10月15日(日)
■2023年10月15日(日)、東鷹栖安部公房有志の会主催「安部公房没後30周年記念」特別講演に鎌田東二先生(詩人・宗教学者・哲学者、京都大学名誉教授)をお迎えし「安部公房ー仮(化)の文学」、世界的作家・安部公房ゆかりの地で記念すべき講演を開催できました。事務局として心より感謝申し上げます。
 旭川の文芸評論家・高野斗志美は「安部公房の文学は、たんに現実を描くのではない、現実を破壊するための仮説と実験の空間である」と論じました。その「仮説」、小説『壁ーS・カルマ氏の犯罪』の《とらぬ狸の皮算用》=仮説、国境も人間が作り上げた仮説にすぎない、ボーダー、我々が真実だと思っているものを一回取り外してみよう…ボーダーレスの感覚は、安部公房が幼少期を過ごした満州奉天という、当時、東京よりも都会であった、劇場のように、短い期間で築かれ、敗戦とともに失われた都市で育まれた…『燃えつきた地図』、『箱男』、『密会』…都市の文学、都市に存在の可能性を追求し続けた安部公房の創作の原点の秘密に迫るご指摘。父親の留学のため、奉天から東鷹栖村にやってきて、小学校2年生から3年生の1年半の間、満州と東鷹栖村を比べてどう思ったか。安部公房満州に比べると東京は田舎だと感じていました。
 鎌田東二先生が注目された『安部公房全集4巻』に所収の「奉天―あの山あの川」、「私はときどき自分が故郷の周辺をさまよいながらついに中に入れないアジアの亡霊であるかのような気持になってくるのだ。」、その「アジアの亡霊」という言葉からは安部公房が1954年に初めて書いた戯曲『制服』を想起しました。敗戦直前の北朝鮮の港町で、主人公や周りの登場人物が次々と幽霊として存在していく…三島由紀夫椎名麟三に激賞された戯曲でした。「アジアの亡霊」、まさにその感性の内部に触れるような言葉です。
 安部公房と同時代人である哲学者ハンナ・アーレントとの共通性、二人とも人間の条件、人間と非人間との差異や変形・変容に焦点を当てたというご指摘も嬉しく、ハンナ・アーレント安部公房も、ハイデガーから強い影響を受けました。『無名詩集』発行直前の若き安部公房の壮絶な詩論『詩人の運命』は存在論であり、ハイデガーの影響が色濃く見られます。ハンナ・アーレントが『人間の条件』を出版した1958年に安部公房は『第四間氷期』を出版、日本で初めてのSF小説、AIに支配される世界で環境変化に適合する水棲人間を創造することで人間の条件を問う…。
 近文第一小学校の安部公房の記念碑「故郷憧憬」(揮毫:保坂一夫氏)や、公民館の展示、川端康成から送られた手紙なども鎌田東二先生にご覧戴き、東鷹栖安部公房有志の会の会員メンバーともお話し戴きました。旭川市教育委員会の後援、東鷹栖公民館の共催を戴き、旭川市内でも話題となり、一般参加も多く、特別な会となりました。一同心より感謝申し上げます。