詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

花崎皋平さんの新詩集『チュサンマとピウスツキとトミの物語 他』(未知谷)のこと

■5月29日(火)の北海道新聞夕刊に、花崎皋平さんの新詩集『チュサンマとピウスツキとトミの物語 他』(未知谷)が紹介されていました。小熊賞『アイヌモシリの風に吹かれて』以来、長編詩を書く気持ちにはならなかったが、土橋芳美さんの叙事詩『痛みのペンリウク』を読み、また、長屋のり子さんが自作詩「盲いたシンキチョウの悲歌」を、昨年春に江別の〈ドラマシアターども〉で朗唱されたのを聴いて、「テーマが見つかった、チュサンマに興味を引かれ、ぜひとも書きたいと思った」とのこと。
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■そこで『チュサンマとピウスツキとトミの物語 他』を、映画を観るように一気に読ませて戴き、とても読み応えのある長編詩でした。ポーランド文化人類学者、ブロニスワフ・ピウスツキの視点から、離れ離れになってしまうその妻チュサンマの視点から、チュサンマの面影が、花崎さんが一緒に暮らしたアイヌ女性のトミさんに重なる、そのトミさんの視点から… 花崎さんの人類への愛に満ちた視点から、織りこまれた深い物語詩。(トミさんがチュサンマであるはずはないのですが、あたかも現代に転生したかのように、身近な存在のように自然に共通点で繋がれる力量はさすがです。)
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その愛は消えない
男が去り 女が残る
女が去り 男が残る
二人の間に生まれた愛は
二人を離れ 塵となって漂いだす

宇宙の空間を

ビッグバン以来の宇宙の塵は
いまもすべて真空の中を漂っているという 
無といえば無
すべてといえばすべて
あるといえばあり
ないといえばない

(「終章 愛の行くえ」)
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■後半粒ぞろいの「アイヌ人と文化の詩」。前作『いのちへの旅』に収録されていた「そんなことなんでもないよ」が絶妙な配置で再登場します。ここになくてはならない、切ない詩です。トミさんへの想いが溢れています。
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■花崎さんのこの2冊の詩集を読んだ後で、『チュサンマとピウスツキとトミの物語 他』本文中にも紹介された長屋のり子さんの作品「盲いたシンキンチョウの絶唱~チュフサンマの悲歌、そして哀歌、そして挽歌~」を再読させて戴き、ああそういうことか、と、ガーン、と頭を殴られたように、読み方が全部変わってしまい、感動。とても切なく、胸熱く。花崎皋平さんの新詩集と、長屋さんのこの作品は響き合っており、両方の存在は、お互いにとって欠かせない。チュサンマとピウスツキのように。トミさんと「彼」のように…
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16年前、あなたがパリで不慮の死を遂げた日、
わたしは夥しい白鳥が、まるで天地の運行のように
悠久に、ひたすらに サハリンの
夜空を流れるのを 確かに見ていたのです。
一羽の鳳(オオトリ)の鋭く 切なく 親しく、懐かしく
鳴くのを聞いているのです。幻聴ではなく
あれは、まさしくまさしくあなたでした。ピオトル、あなたでした。
命賭した 革命を終えてパリから
あなたの魂は まっすぐに 一目散に
私と、あなたの俊秀の潔い血を継ぐ あなたの
子供達 愛しい愛しい助造とキヨの 待つ 樺太
返ってきてくれたのです、アイハマに、アイカワに。愛の巣に。
(盲いたシンキンチョウの絶唱~チュフサンマの悲歌、そして哀歌、そして挽歌~」)
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