詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

小樽詩話会会報 No.623 2019年6月号

小樽詩話会会報 No.623 2019年6月号
昨年11月の旭川詩人クラブで展示した作品を冒頭に掲載戴きました。誠に、恐縮です。
 「ちいちゃん」という女の子が、お父さんの仕事(警察官)の都合で転勤、4人家族が道内引っ越しを繰り返す。前半は地名をアイヌ語の意味で書いています。
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 主たる川=〈士別〉
 向こうの島=〈奥尻
 頭が浜についている所=〈江差
 山奥に入っていく川へ=〈苫小牧〉
 合川=〈興津〉
 向こう地=〈春採〉
 通路、喉または薬=〈釧路〉
 月日の出る…秋の…波立つ川=〈旭川

 昭和のちいちゃんの家族は日産サニーやトヨタカムリで、車で移動します。アイヌの人たちは川を船で移動しました。天気の良い日に車に乗っていると、遠くのアスファルトが光って濡れているように見えます。雨で濡れているのではなく、太陽の光が反射している、と運転席のお父さんが教えます。「そのとき、何かが語ってくれた」夢か幻想か、人智を超えた現象、遠い昔に亡くなられた方が時を超えて語る、世界が水と光でできていると思えるような、不思議なお告げが訪れます。アイヌの人たちが船で移動していた時代の道路は川であり、水であり、水は光っていました。雨上がり、四人家族の車が虹のアーチをくぐる。家族の平和な日常の同時体験。幸せな一家団欒のときの表情は、現代の日本の家庭にも、アイヌの人たちの家族にも、当然あったのだろうということを書く試みでした。

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「 顔 」

主たる川から向こうの島へ
向こうの島から頭が浜についている所へ

お父さんの仕事の都合で
鉄道で
または車で

頭が浜についている所から
山奥に入っていく川へ

駅のホームに弟の友達が
大勢詰めかけたり
さっきまで夏だったのに
トンネルをくぐったら
突然、雪景色になったりして

合川から向こう地へ
通路、喉または薬から
月日の出る…秋の…波立つ川へ

日産サニーかトヨタカムリで
助手席にちいちゃんはいて
後部座席にお母さんと弟がいて
遠くの道が濡れて見えた
「雨が降っているのかな?」
「違うよ、太陽の光が反射しているのだよ…」

そのとき、何かが語ってくれた
どんな言葉か憶えていないけれど
子どもにもわかりやすい不思議な言葉で
仕組みを語ってくれた
(世界が水と光でできていると思った)

次の町で雨が降ってきた
あの道の光は消えてしまった

その次の町で雨はやんだ
虹のアーチをちいちゃんとお父さんはくぐった

弟とお母さんもくぐった
そのときの
四人の
*

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小樽詩話会

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