詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

河野俊一さんの御詩集『ロンサーフの夜』(土曜美術社出版販売 2019年6月30日発行)

■河野俊一さんの御詩集『ロンサーフの夜』(土曜美術社出版販売 2019年6月30日発行)を拝受致しました。誠にありがとうございます。「ロンサーフ」とは、「治癒切除不能な進行・再発大腸癌の治療薬。癌自体の進行を抑え、延命および症状緩和の目的が主」。「晃子」さんの3歳から26歳までの人生がこの一冊に込められている。三部構成で編まれており、何気ない日常の会話や、闘病生活、ご家族との心のふれあいがえがかれる。
 「残念な顔をする/残念な顔を作るのと/残念さが顔に出るのとは/違う/顔なんて/なければいいのに」(「これは夢だな」)、「私たちは/何をよろしくお願いしたのだろう/その丘の上から見える/これから先のこと/どのくらい広がって/どのくらい匂い立つ/ずっと続く時間を思いながら/西日の山並みに目を向けている」(「菓子折り」)。その瞬間を経験した詩人にしか書けないこうした詩句が切実に読む者の魂をつかむ。最後の詩「河原に下りる階段で」の三途の川で交わされる父娘の会話。「もう帰っていいよ、と晃子が言う。入院しているときも、いつも言われていた言葉だ。」 この詩集に書かれている以外にも、26年間の間に膨大な言葉が交わされていたことと思います。書かれた会話、選ばれた詩法、書かれなかった会話、書かれずに記憶の深い場所で大切に残されている会話…想像力を喚起する。多くの読者にとって、忘れられない存在として、たくさんの「晃子」さんが生きていく。

 

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