詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■富田正一さんの詩集『老春のプロムナード』(青い芽文芸社・2020年3月20日)

■今月の「月刊メディアあさひかわ」(2020年4月号)144ページに「旭川在住の富田正一さん ますます創作意欲 93歳の誕生日に合わせ7冊目の詩集刊行」。この度刊行された富田正一さんの詩集『老春のプロムナード』(青い芽文芸社・2020年3月20日)が大きくとりあげられております!!
 詩人・富田正一さんは話題が豊富で、お会いする度に他では聴けないようなご自身の体験からのたくさんのお話をして下さいますが、ストーリーが醸成され、詩のモチーフへと昇華され、さらに卓越な推敲が重ねられていく創作過程を、2007年の詩集『夕焼けの家」(青い芽文芸社)やエッセイ集『あの日あの顔―わが78年の足跡』(2005年・青い芽文芸社)からも感じておりました。今作『老春のプロムナード』には、通信兵として従軍した18歳の戦争体験から国鉄勤務時代~現在までの75年間の、長くて短い、短くて長い、きらきらとした魔法の膨大な瞬間と思想が、33篇に込められています。
 「ふと空を仰ぐと 紺青の空に下弦の月をとりまく 星が 隊員たちを迎えるように瞬いている エンジンが始動する 隊長の「出発」の人声で それぞれの愛機に搭乗する 「武運を祈るぞ」「ありがとう」戦友との別れの言葉を交わして黙視の敬礼 沖縄まで二時間半 戦果報告もまばら だが紅顔の戦友たちは一人も還って来なかった」(「陸軍最後の特攻基地」)
 2018年9月29日、フィール旭川ジュンク堂書店のギャラリーで「〈青芽〉から〈フラジャイル〉へ」の展示と朗読会をおかげ様にて盛大に執り行いましたが、開始準備前でまだ他に誰もいない会場で、身を現人神に捧げ南冥北獏の地に散華せんと誓い、神龍特攻隊に配属され、グライダー訓練中に玉音放送を聴いた祖父を持つ柴田と、海軍飛行予科練習生として特攻訓練中に敗戦を迎えた父を持つCと、当時通信兵として多くの特攻隊員を見送り、多くの戦友に別れを告げた富田さんの三人でお話ができました。日常の中の奇蹟のようなひととき。言い知れぬ不思議な磁場が生じていくのを感じておりました。昭和20年8月15日、九州大刀洗飛行場でのことが書かれた富田正一さんの詩作品「飛行機雲だけが知っている」を、柴田が朗読させて戴きました。その会の一番最後に富田さんが見事な朗読を披露された詩は「戦友」そして「老春」でした。「あっと言う間に/節分のような豆粒の銃弾が/叩き付けるほどの嵐だ」(「菊と刀」)。戦争の体験が富田さんの詩の核の最も深いところで今も鮮明に生き続けている。
 一瞬一瞬を大切に編み込まれたタペストリーを富田さんは「プロムナード」と名付ける。この稀有な一冊の詩集が、一人の詩人の歩みを刻み、日本の戦後の激動を記録している。時の流れは一方通行ではない。まだまだ、はじまったばかりだよ、といつもの満面の笑顔が浮かぶ。春は必ず訪れる。どの地点も、決して終わりではない。

富田正一さんの朗読「戦友」「老春」
https://youtu.be/9xGpQhHxxdk

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