詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

本田初美さんの新詩集『芭露の森』(緑鯨社 2021年4月21日)

■2019年の第52回小熊秀雄賞のとき、唯一北海道の詩人の作品で最終選考に残り最後まで議論された詩集がありました。それは本田初美さんの『芭露小景』(緑鯨社)という素晴らしい詩集です。当時の「あさひかわ新聞」で最終選考の様子を読むことができます。農村の生活、前半のお母様の存在、ご近所のお友達など登場人物も魅力的で、本当に面白く読んだ、という意見が聞かれました。
 本田初美さんの待望の新詩集『芭露の森』(緑鯨社 2021年4月21日)を拝読させて戴きました。誠にありがとうございます。御出版、心よりお祝い申し上げます。
 木漏れ日が溢れてきそうな、吸い込まそうな緑の表紙。そういえば『芭露小景』の表紙も題字も、とても魅力的でした。小樽詩話会で拝見した作品が多く、2018年以降の本田さんの最新詩集。直近の主題として、詩人の住む緑豊かな地にも、新型コロナの影響が及ぶ。

「町内のドラッグストアでは
 マスクと消毒液のことは
 聞かないで下さい
 そのような質問で店員が
 時間をとられるのは
 困るんですって
 
 広い店内に客は三人か四人
 なのにですよ」(「ことしの春」)
 
 生活者目線からの優れたユーモアセンス。鼠の存在感、芭露の森(父の森)を巡回してくれた熊の運命、自然との他者との共生、自分の身体との呼吸のような対話、存在の確認。紛失したブローチからお父様の記憶が呼び起こされる「夜の窓」、生前の元気だったころのお父様を含む五、六人が朝方どやどやとやって来て、もう壊してしまった家の鍵を求める「あの家」がとても心に深く温かく残りました。

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