詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■詩誌「木偶」118号(編集・発行 田中健太郎氏 『木偶』編集室 2021年6月15日)

■詩誌「木偶」118号(編集・発行 田中健太郎氏 『木偶』編集室 2021年6月15日)を拝読させて戴いております。誠にありがとうございます。
 4月後半の2週間は柴田は腰痛でまともに歩けませんでした。それはたぶん心の疲れから来ていたもので、腰痛が収まると5月は気分的な落ち込みや喪失感がひどく、しばらく苦しんでおりましたので、「首の痛み 頭痛 吐き気 肩こり 手の痺れ が/二十四時間ずっと続く日々を送っている」と告白される勝嶋啓太さんの「詩 を探す」に注目、対象の周辺を丁寧に描き、あえて対象を画面に登場させない美術の手法のように、詩の喪失を書くことによって見事に詩を世界に存在させている。出会いたい一文字、一語、一文、一篇に深い感銘を受けております。
 天内友加里氏の「父の歌」、戦争が終わっても「職業軍人を自称する父」は「日常も軍隊式」、「時代に乗り切れない 硬い頭」…。この詩に感動した理由は、時代の変化というものは、ある年の何月何日に、はい、ココから!と変わるのは嘘ではないかと感じたからです。戦後の経済成長は、ある意味、戦前や戦中に得た技術や苦労も生かされたのではないかと考えたとき、時代はある地点から急に変わったのではなく、強いられる急激な変化さえも、長い時間をかけて準備された原因に対する一つの結果の表れであって、切れ目とは実は幻で、本当は連続した世界であるということが、庶民である「可哀想な父」の日常によって暴かれているように感じたからです。
 田中健太郎さんの評論「森れい詩集『かえしうた』を読むー石たちの永い命をうけとめて」をとても嬉しく拝読、今年度の第58回北海道詩人協会賞を受賞された森れいさんの素晴らしい詩集『かえしうた』の底知れぬ魅力が、丁寧に論じられています。「銀河を 風を 火を 水をとじこめた宝(いし)」(「錺り屋 Ⅰ」)、その宝玉の硬さは「他者を攻撃するためのものではなく、生まれた場所に再び帰る永い時間を「耐える」ためのもの、永い時間の途中の、ほんの短い間だけ、この輝きを預かっている」。永い時間には人類の壮絶な試練の時代も含まれる。「いましばらくは/ひとのかたちをして」という忘れられないフレーズ。巡り来る朝の輝き。詩の可能性が石に命を与え、石の永遠をひとの時間、人生の旅に与えているよう。

f:id:loureeds:20210605144315j:image
f:id:loureeds:20210605144311j:image
f:id:loureeds:20210605144302j:image
f:id:loureeds:20210605144307j:image