詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■ 神原良氏の新詩集『夜の北緯』(文化企画アオサギ 2021年6月16日)

■今年3月29日、北海道新聞に「小樽「オタモイ遊園地」跡の再開発 ニトリが事業化検討」が報じられました。小樽商工会議所が進める「オタモイ遊園地」跡の再開発計画について、似鳥昭雄会長は「収支トントンが見込めるならうちでやるかもしれない」と述べ、ニトリグループとして事業化に乗り出す可能性を示した。
 昭和初期の「オタモイ遊園地」、断崖絶壁に建てられた高級料亭「龍宮閣」を中核施設とした巨大リゾート施設、一日に数千人が訪れた人気行楽地。まるで映画『千と千尋の神隠し』のような世界。度重なる災害で閉鎖され、現在は道が閉鎖されている。
「砂の入り江」を意味するアイヌ語が語源のオタモイ遊園地の伝説について、いつか書いてみたいと思っておりました(小樽に住んでいたとき、この話を会社の上司にすると、「それがきみの人生のテーマだね」とか言われました^_^)。本日、神原良氏の新詩集『夜の北緯』(文化企画アオサギ 2021年6月16日)を拝受致しました。

「遊園地を
 幻想の人々が歩いていく
 消えた遊具
 歓声だけの海辺
 崖の未知で
 すれ違う十五年前の恋人たち
 その十五年後の
 消息」

「再訪した海辺と遊園地
 浴客の いる筈もない砂浜
 幻の感性だけが 今も聴こえ
 沖を行く 密貿易船の航跡が白く
 僕の生涯を過る」(「オタモイ幻想」)

まさにあの「オタモイ遊園地」のことが書かれており、非常に嬉しく、赤岩山展望台から見渡せる景色が広がってくる。
誰もいないはずなのにたくさんの人の気配が犇めいているあの海岸の、独特な空気が見事に編み出されている、この詩集の至るところから覗かれる深い記憶の別世界に、今日は浸っております。心より感謝申し上げます。

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